交通事故の通院交通費の嘘はバレる?弁護士が裁判例から解説

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交通事故の通院交通費の嘘はバレる?弁護士が裁判例から解説

交通事故で通院を続けていると、保険会社から「通院交通費明細書」の提出を求められます。ここで多くの方が一瞬立ち止まるのが、「少しくらい多めに書いても分からないのでは」「通っていない日を足しても誰も確認しないのでは」という迷いでしょう。お気持ちは分かりますが、通院交通費の水増しが裁判で明らかになり、受け取った金額の返還だけでなく調査費用まで負担させられた判決まであります。

この記事では、東京地裁と名古屋高裁の3つの裁判例を手がかりに、交通事故の通院交通費で嘘がどのようにバレるのか、そしてバレたときに何が起きるのかを具体的にお伝えします。同時に、ガソリン代やバス代、タクシー代などを正しく計算し、堂々と請求するための考え方もまとめました。読み終えるころには、「隠す必要のない請求」がどれほど心強いものか実感していただけるはずです。

主要なポイント

  • 通院交通費の嘘が保険会社や裁判所に見抜かれる具体的な仕組み
  • 通院日数や距離を水増しした人が裁判でどうなったかという裁判例の結末
  • ガソリン代・バス・タクシー・徒歩など交通手段ごとの正しい計算方法
  • 通院交通費明細書の出し方と医療費控除との関係

1. 交通事故の通院交通費で嘘がバレる理由と裁判

1. 交通事故の通院交通費で嘘がバレる理由と裁判

この章では、まず通院交通費がそもそもどういう性質の損害なのかを押さえたうえで、保険会社がどのような手段で嘘を見抜いているのかを説明します。そのあとで、通院日数の水増しや距離の過大申告が裁判所に認定された3つの裁判例を取り上げ、最後に刑事上の責任にまで話を進めます。「バレるかどうか」ではなく「バレたときに何を失うか」まで見ていただきたい章です。

1-1. 通院交通費はどこまで請求できるのか

1-1. 通院交通費はどこまで請求できるのか

通院交通費とは、交通事故のケガを治療するために病院や整骨院へ通った際にかかった交通費のことです。治療費や休業損害、慰謝料と並ぶ独立した損害項目で、加害者側の保険会社に請求できます。

ここで大切なのは、「かかった交通費なら何でも支払われる」わけではないという点です。損害として認められるのは、事故と相当因果関係があり、必要かつ相当な範囲の実費に限られます。自賠責保険の支払基準でも、通院交通費は「必要かつ妥当な実費」と位置づけられています。つまり、実際に通院した日の、実際に利用した交通手段の、社会通念上おかしくない金額だけが対象になるのです。

言い換えれば、通院していない日の交通費、実際より長い距離のガソリン代、必要もないのに使ったタクシー代などは、最初から損害には含まれません。

2026年版の民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準 上巻(基準編)、通称「赤い本」
2026年版「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準 上巻(基準編)」、通称「赤い本」。通院交通費を含む損害項目の実務上の考え方がまとめられている。

通院交通費の基本ルール

・実際に通院した日の分だけ請求できる

・電車やバスなど公共交通機関は実費

・自家用車は走行距離に応じたガソリン代相当額で計算するのが一般的

・タクシーはケガの状態や交通の便から必要性が認められる場合に限られる

私が相談を受けるとき、「交通費くらい細かく気にしなくても」とおっしゃる方は少なくありません。しかし、通院交通費明細書は保険会社に提出する正式な請求書類です。あなたが書いた一行一行が、そのまま「事実の申告」として扱われることを忘れないでください。

1-2. 嘘がバレる仕組みと保険会社の調査方法

1-2. 嘘がバレる仕組みと保険会社の調査方法

「たかが交通費で保険会社がそこまで調べるはずがない」と思われるかもしれません。ところが、実際には複数の書類を突き合わせるだけで、多くの嘘は簡単に浮かび上がります。

第1に、診療報酬明細書や施術証明書との照合です。病院や整骨院は保険会社に対し、いつ、どのような治療をしたかを月ごとに報告しています。あなたが通院交通費明細書に書いた日付と、医療機関側の通院日が食い違えば、その時点で疑いの目が向けられます。

第2に、距離の確認です。自宅と病院の住所さえ分かれば、地図サービスで往復距離はすぐに割り出せます。名古屋高裁の裁判例では、被害者が「往復24キロ」「往復60キロ」と申告した病院までの距離が、実際には「17.2キロ」「46.4キロ」であることが証拠によって認定されました。

第3に、領収書の有無です。タクシー代は原則として領収書で裏付ける必要があります。同じ名古屋高裁の事案では、明細書に約39万9,850円のタクシー代が記載されていたものの、領収書で確認できたのは36万3,260円にとどまり、その差額は認められませんでした。

そして第4に、調査会社による行動調査があります。東京地裁の2つの裁判例では、保険会社が調査会社に依頼し、被害者の行動を10日間にわたって追跡したり、整骨院に来院する患者を定点観測したりしていました。「通院した」と申告した日に、実際にはショッピングモールで知人と過ごし、格闘技ジムでトレーニングをしていたことまで明らかにされています。

◆弁護士のワンポイントアドバイス

保険会社は、通院日数が不自然に多い、整骨院の施術日と交通費の日付が整合しない、といった「違和感」を出発点に調査を始めます。正直に書いた明細書は多少の記入漏れがあっても「実態に沿っている」と評価されやすい、というのが現場の感覚です。

1-3. 通院日を水増しした裁判例とその結末

1-3. 通院日を水増しした裁判例とその結末

ここからは実際の裁判例です。まず取り上げたいのは、東京地裁平成27年9月8日判決(自保ジャーナル1959号)です。

横断歩道で左足を踏まれた歩行者の事案

歩行者が青信号の横断歩道を渡ろうとした際、左折してきた乗用車に左足を踏まれたという事故でした。被害者は約3か月間、整骨院に通ったとして、保険会社に通院交通費明細書を提出します。その内容は、日曜・祝日などを除く合計70日間、バスとJRを利用して通院し、交通費の合計は7万9,800円というものでした。

ところが、本人尋問で被害者自身が「週に1回程度、自家用車で通院した」と供述したのです。裁判所は、被害者が事実と異なることを認識しながら、実際よりも多い通院日数を記載した明細書を提出し、保険会社を錯誤に陥れて通院交通費7万9,800円を詐取したことは明らかだと認定しました。

さらに注目すべきは、この被害者が明細書を書く際に、その場で整骨院に電話をかけ、整骨院が提出していた施術証明書の通院日と一致するように日付を書き込んでいた点です。裁判所は、被害者と整骨院との間に「通院日を一致させる」という共通の認識があったと推認し、両者の共同不法行為を認めました。

東京地裁平成27年9月8日判決で被害者が負った負担

項目 裁判所の判断
整骨院の通院交通費 0円(通院の必要性も通院の事実も認められない)
受け取った7万9,800円 正当な損害1万1,000円を差し引いた6万8,800円を利息付きで返還
保険会社の調査費用 整骨院と連帯して50万円を賠償
保険会社の弁護士費用 5万円を賠償

保険会社が調査会社に支払った費用は232万円でした。裁判所は、被害者と整骨院が通じて通院日を一致させる場合には通常の聞き取りでは事実を解明できないとして、調査費用を相当因果関係のある損害と認め、50万円の限度で賠償を命じています。約8万円の交通費を多く受け取ろうとした結果、返還額と賠償額を合わせて60万円を超える負担を背負うことになったわけです。

高速道路の追突事故で通院日数を半分と認定された事案

次に、東京地裁平成29年9月13日判決(自保ジャーナル2008号)です。こちらは高速道路で追突され、玉突き事故になった夫婦の事案でした。事故自体は決して軽微とは言えず、裁判所も整骨院での施術の必要性そのものは否定していません。

しかし、整骨院の施術証明書には月に20日から25日の通院が記載されていたのに対し、保険会社の依頼した調査会社が営業時間内に来院を確認できたのは、観測した5日間のうち1日だけでした。しかも夫は週3回、1回約5時間の人工透析を受けており、透析日と整骨院の通院日が45日も重なっていたのです。

裁判所は、通院実日数を主張のおよそ2分の1と認定し、通院交通費も同じ割合で削りました。そのうえで、整骨院の施術証明書と一致する通院日数を記載した通院交通費明細書を提出したことについて、夫婦それぞれに民法709条の不法行為が成立すると判断しています。

結果として、夫婦と整骨院は連帯して、保険会社の調査費用30万円と弁護士費用3万円を賠償することになりました。本来なら被害者として賠償を受ける立場だったのに、逆に保険会社へお金を支払う側に回ってしまったのです。あなたなら、この結末をどう受け止めますか。

交通事故損害賠償や金額算定事例集などの専門書を備えた法律事務所の本棚
当事務所の本棚。交通事故損害賠償や判例要旨、金額算定事例集など、裁判例を確認するための専門書を日常的に参照している。

1-4. 距離や日数を多く書いた裁判例の結末

1-4. 距離や日数を多く書いた裁判例の結末

3つ目は、名古屋高裁平成27年2月25日判決(自保ジャーナル1946号)です。交差点での出合頭衝突で、被害者は労災で3級という重い等級の認定を受けていたものの、裁判所は自賠責と同じ14級9号にとどまると判断した事案でした。通院交通費についても、細かな精査が行われています。

被害者は通院交通費明細書に、タクシー代39万9,850円と、自家用車の合計走行距離3,502.5キロを記載しました。1キロ15円で計算すると、ガソリン代は5万2,537円になります。ところが裁判所は、次の点を一つずつ確認していきました。

名古屋高裁が通院交通費から差し引いた内容

・タクシー代は領収書で確認できる36万3,260円のみ認定

・鍼灸院を受診していない16日分と、病院を受診していない2日分のガソリン代は不認定

・同じ日の鍼灸院の交通費を二重に記載していた1日分も不認定

・病院までの往復距離が実際より長く申告されていたため、証拠で認められる距離に修正

距離の修正は、B病院が往復24キロから17.2キロへ、C病院が40キロから27キロへ、大学病院が60キロから46.4キロへ、クリニックが20キロから8.6キロへというものでした。合計走行距離は3,502.5キロから最終的に2,798.3キロまで減り、ガソリン代は4万1,974円と認定されています。

この事案で見逃せないのは、被害者が距離の申告について「特段争わなかった」と判決に書かれている点です。証拠を突きつけられれば、反論の余地はほとんどありません。通院していない日の交通費請求、二重請求、距離の過大申告という3つの問題が、明細書と証拠の照合だけで次々と明るみに出たのです。

さらに言うと、この裁判例では通院交通費の水増し以外にも、重い後遺障害を訴えながら遠方の湖まで出かけて釣り大会で複数回入賞していた事実などが認定され、被害者の主張全体の信用性が大きく揺らぎました。交通費の一項目の不正確さが、事件全体の評価にまで影を落とすことがある、という教訓です。

1-5. 交通事故の虚偽申告が罪になる場合

1-5. 交通事故の虚偽申告が罪になる場合

ここまでの裁判例は、いずれも民事事件です。しかし、通院交通費の水増しは刑事上の責任を問われる可能性もあります。

事実と異なる通院日数や距離を記載した明細書を提出し、保険会社をだまして保険金を受け取る行為は、刑法246条の詐欺罪に該当し得る行為です。詐欺罪の法定刑は10年以下の拘禁刑で、罰金刑の定めがありません。東京地裁平成27年の判決でも、裁判所は「詐取した」「欺罔行為に当たる」という詐欺罪を強く意識した言葉を使っています(出典:e-Gov法令検索『刑法』)。

実際に立件されるかどうかは金額や態様、悪質性によりますが、整骨院と口裏を合わせた組織的な水増しや、繰り返し行われた不正請求では、保険会社が警察へ被害届を提出するケースも珍しくありません。民事で返還と賠償を命じられたうえに、刑事事件として取り調べを受けるという二重の負担を想像してみてください。

虚偽申告が及ぼす3つの影響

1つ目は、受け取った金額の返還と調査費用などの賠償という民事上の責任です。2つ目は、詐欺罪などの刑事責任を問われる可能性です。そして3つ目は、慰謝料や休業損害といったほかの損害項目についても「この人の申告は信用できない」と見られ、正当な部分まで厳しく削られてしまうという信用面の影響です。

もう一つ付け加えると、示談交渉の場面でも影響は続きます。保険会社が不正の疑いを持った案件は、通常より慎重に、時間をかけて処理されます。治療費の支払いが打ち切られたり、示談の提示そのものが遅れたりして、結局は被害者本人が一番困ることになるのです。

2. 交通事故の通院交通費で嘘がバレる前に知る正しい請求

2. 交通事故の通院交通費で嘘がバレる前に知る正しい請求

ここからは視点を変えて、「どうすれば正しく、そして漏れなく通院交通費を受け取れるか」を解説します。自家用車のガソリン代、バスや電車、徒歩、タクシーといった交通手段ごとの扱い、通院以外の交通費、明細書の提出時期や書き方、さらに医療費控除との関係まで、実務で本当に質問の多い順に並べました。正直に請求することは、損をすることではありません。むしろ正しい知識があれば、請求し忘れていた分を取り戻せることも多いのです。

2-1. ガソリン代など自家用車通院の計算方法

2-1. ガソリン代など自家用車通院の計算方法

自家用車で通院した場合、ガソリンの領収書をそのまま出す必要はありません。実務では、自宅から医療機関までの往復距離に1キロあたり15円を掛けて計算するのが一般的です。先ほどの名古屋高裁の判決でも、裁判所は「15円/キロ」を前提にガソリン代を算定していました。

自家用車通院の計算例(あくまで一般的な目安)

往復距離 通院日数 計算式 金額
10キロ 30日 10キロ×15円×30日 4,500円
20キロ 60日 20キロ×15円×60日 18,000円
40キロ 90日 40キロ×15円×90日 54,000円

距離は、地図サービスで自宅から病院までの実際の走行経路を調べ、その往復を記載します。「だいたい往復20キロくらい」と丸めて多めに書くのは避けてください。名古屋高裁の事案では、まさにこの丸めが過大申告と認定されました。端数まできちんと書くほうが、かえって信用されます。

加えて、通院の際に病院の有料駐車場を利用した場合の駐車料金や、高速道路を使う必要があった場合の高速料金も、必要性が認められれば請求できます。こちらは領収書を必ず保管しておきましょう。なお、1キロ15円という単価はガソリン価格の変動にかかわらず実務上の目安として使われているもので、実際の燃費や燃料代と厳密に一致するわけではありません。

2-2. バスや電車、徒歩で通院した場合の扱い

2-2. バスや電車、徒歩で通院した場合の扱い

バスや電車といった公共交通機関で通院した場合は、実際に支払った運賃をそのまま請求します。ICカードの利用履歴を印字しておくと、日付と区間の証拠になり、後々の照合もスムーズです。切符を買った場合は、可能な範囲で領収書をもらっておきましょう。

ここで気をつけたいのは、「バスに乗ったことにして運賃を請求する」という発想です。東京地裁平成27年の事案では、実際は自家用車で週1回通っていた被害者が、明細書には「バスとJRで70日間」と記載していました。自家用車ならガソリン代相当額、バスなら運賃と、交通手段によって金額は変わります。実際の手段と違うものを書けば、それだけで虚偽の申告です。

では、徒歩や自転車で通院した場合はどうでしょうか。答えは明快で、実際に支出した交通費がない以上、通院交通費として請求できるものはありません。「歩いたけれど電車に乗ったことにしておこう」という考えは、これまで見てきたとおり最も危険な選択です。

徒歩通院が損になるわけではない理由

通院交通費がゼロでも、通院した事実そのものは入通院慰謝料の計算に反映されます。徒歩で通える近さの病院に真面目に通い続けたことは、治療の必要性や症状の継続を裏付ける事情にもなります。交通費が出ないからといって通院を減らすのは、むしろ本末転倒です。

ちなみに、職場から病院へ直接向かった場合の交通費も、通院のために必要だった移動であれば請求の対象になります。自宅からの経路と異なるときは、明細書に出発地を明記しておくと誤解を避けられます。

2-3. タクシー代が認められる条件

2-3. タクシー代が認められる条件

通院交通費の中で、最も争いになりやすいのがタクシー代です。原則として、公共交通機関や自家用車で通院できる人がタクシーを使っても、その差額は「必要かつ相当な範囲」を超えると判断されがちです。

とはいえ、ケガの状態や交通事情からタクシーを使わざるを得なかったのであれば、実費が認められます。具体的には、骨折で松葉杖が必要な期間、めまいや強い痛みで公共交通機関に乗れない状態、公共交通機関の便が極端に悪い地域、深夜の受診などが典型です。名古屋高裁の事案でも、被害者側が求めたタクシー代のうち領収書で裏付けられた約36万円は、事故直後から約7か月の期間について認められています。

タクシー代を認めてもらうための準備

・必ず領収書を受け取り、日付順に保管する

・主治医にタクシー通院が必要な状態であることをカルテに記載してもらう

・可能であれば、事前に保険会社へタクシー利用の必要性を伝えておく

・症状が軽くなったら、公共交通機関や自家用車に切り替える

特に重要なのは、事前に保険会社へ一報を入れておくことです。あとから「実はずっとタクシーでした」と数十万円の請求をされれば、保険会社は必要性を厳しく問うてきます。反対に、最初から「医師の指示で当面タクシーを使います」と伝えていれば、支払いの了解を得やすくなります。

また、タクシー代の二重請求にも注意が必要です。名古屋高裁の事案では、保険会社側から「タクシー代を重複請求している部分がある」との指摘がなされていました。領収書を日付順に整理しておけば、うっかり同じ日を二度書いてしまうミスも防げます。

2-4. 通院以外の交通費はどこまで認められるか

2-4. 通院以外の交通費はどこまで認められるか

「交通事故の交通費は通院以外にも出るのか」という質問もよく受けます。結論から言うと、事故と相当因果関係があり、必要性が認められる範囲であれば、通院以外の移動についても交通費が損害として認められることがあります。

代表的なのは、付添人の交通費です。幼い子どもや高齢の方、重傷で一人では通院できない方に家族が付き添った場合、付添人の交通費も損害と評価されることがあります。ただし、付添いの必要性が前提になるため、軽いむちうちで大人の付き添いが毎回必要だと主張しても、認められる可能性は低いでしょう。

入院中の家族の見舞い交通費についても、入院期間や病状、家族関係によっては認められる余地があります。遠方の家族が入院直後に駆けつけた場合の交通費などが典型です。もっとも、頻繁な見舞いのすべてが対象になるわけではありません。

そのほか、後遺障害診断書を取得するための通院、警察署での事故処理や実況見分への出頭、保険会社の面談への出席などにかかった交通費も、事案によっては請求の余地があります。一方で、示談交渉のために弁護士事務所へ通う交通費は、原則として損害賠償の対象外と考えられています。

通院以外の交通費で気をつけたいこと

付添人の交通費や見舞いの交通費は、通院交通費以上に「本当に必要だったか」が問われます。付添いをした日付と付添人の氏名、交通手段を記録しておき、医師に付添いの必要性を確認しておくことが、請求を通すための近道です。

2-5. 通院交通費明細書はいつ出す?書ききれない場合

2-5. 通院交通費明細書はいつ出す?書ききれない場合

通院交通費明細書は、加害者側の保険会社から用紙が送られてくるのが通常です。提出のタイミングに法律上の決まりはありませんが、実務では治療が終了したときにまとめて提出するか、月ごとに区切って提出するかのどちらかが多いでしょう。

私は、受任している場合は、基本的に治療が終わった後に、まとめて書いています。それほど金額が大きくなるものでない限り、治療が終わってから通院日・日数・通院手段を確認の上、計算した方が間違いがなく、簡明だからです(また、被害者に書かせるのは負担です。弁護士にやってもらった方が楽でしょう。)。

では、通院回数が多くて用紙に書ききれない場合はどうすればよいでしょうか。答えは単純で、用紙をコピーして2枚目、3枚目を作るか、同じ項目を記載した別紙を添付するかのどちらかです。保険会社に連絡すれば追加の用紙を送ってもらえますし、自分で表計算ソフトを使って一覧表を作り、明細書に「別紙のとおり」と記載して添付しても問題ありません。

通院交通費明細書に書く主な項目

項目 記載のポイント
通院日 診察券の履歴や領収書と一致させる
医療機関名 病院と整骨院を同じ日に回った場合は両方書く
交通手段 実際に使った手段のみ。日によって違えば分けて書く
区間・距離 自家用車は往復の実距離、公共交通は乗降駅や停留所
金額 運賃の実費、または距離×15円

書くときに迷いやすいのが、通院日がはっきり思い出せない場合です。そのときは、病院の領収書や診察券の受診履歴、お薬手帳、ICカードの履歴などを見返して確認してください。曖昧なまま「たぶんこの日も行ったはず」と書くのは、水増しと紙一重です。

2-6. 通院交通費と医療費控除の関係

2-6. 通院交通費と医療費控除の関係

通院交通費は、所得税の医療費控除の対象になる「医療費」に含まれます。電車やバスなど公共交通機関の運賃は控除対象で、タクシー代も病状などから見てタクシー利用がやむを得ない場合には対象になります。一方、自家用車のガソリン代や駐車場代は医療費控除の対象になりません。ここは交通事故の損害賠償における扱いと異なるので、混同しないようにしてください(出典:国税庁『No.1122 医療費控除の対象となる医療費』)。

ただし、交通事故の被害者の場合には大切な注意点があります。医療費控除の計算では、支払った医療費から「保険金などで補てんされる金額」を差し引かなければなりません。加害者側の保険会社から治療費や通院交通費の支払いを受けたのであれば、その分は補てんされた金額として除外します。つまり、保険会社に全額を負担してもらった通院交通費は、医療費控除には使えないということです。

逆に言うと、保険会社との間で「タクシー代は認められない」「一部しか支払われない」となり、自己負担が残った公共交通機関やタクシーの交通費については、要件を満たせば医療費控除の対象になり得ます。確定申告の際には、通院交通費明細書の控えや領収書が役立ちますので、示談が終わった後も捨てずに保管しておきましょう。

交通事故の相談や打ち合わせに使用する法律事務所の個室相談室
当事務所の個室相談室。通院交通費明細書の書き方や保険会社への対応についても、この部屋で具体的な資料を見ながら打ち合わせを行っている。

2-7. 通院交通費の嘘に関するよくある質問(FAQ)

2-7. 通院交通費の嘘に関するよくある質問(FAQ)
Q1. 通院日を1日か2日多く書いただけでもバレますか?

A. バレる可能性は十分にあります。保険会社は医療機関から届く診療報酬明細書や施術証明書で通院日を把握しているため、明細書の日付と突き合わせれば1日の違いでも分かります。名古屋高裁の裁判例では、受診していない日の分や二重に記載した1日分まで丁寧に差し引かれていました。少額であっても事実と違う記載は虚偽申告にあたりますので、記憶が曖昧な日は領収書や診察券の履歴で確認してから書いてください。

Q2. 実際は自家用車なのにバス代で請求するとどうなりますか?

A. 交通手段を偽ることは、日数の水増しと同じく虚偽の申告です。東京地裁平成27年の裁判例では、自家用車で週1回通院していた被害者が「バスとJRで70日間」と記載し、受け取った交通費の返還に加えて調査費用50万円などの賠償を命じられました。自家用車で通院した場合は、往復距離に1キロ15円を掛けた金額を正直に請求するのが正しい方法です。

Q3. 整骨院から「通院日を多めに書いておいて」と言われました。従っても大丈夫ですか?

A. 絶対に従わないでください。東京地裁の2つの裁判例では、いずれも被害者と整骨院の共同不法行為が認められ、被害者は整骨院と連帯して保険会社への賠償責任を負いました。「指示されただけ」という言い分は通用しないと明確に判断されています。

Q4. うっかり間違えて多く書いてしまった場合も詐欺になりますか?

A. 詐欺罪や不法行為が成立するには、事実と異なることを認識しながら請求したことが必要です。単なる記憶違いや計算ミスであれば、直ちに責任を問われるものではありません。ただし、間違いに気づいた時点で放置すると、「知りながら受け取り続けた」と評価されるおそれがあります。気づいたらすぐに保険会社へ連絡し、訂正した明細書を出し直してください。正直な訂正は信用を落とすどころか、むしろ高めます。

Q5. 保険会社にタクシー代を断られました。あきらめるしかありませんか?

A. あきらめる必要はありません。保険会社の回答は交渉上の見解であって、最終的な結論ではないからです。主治医にタクシー通院が必要な状態だったことを診断書やカルテに記載してもらい、領収書を揃えたうえで、必要性を具体的に説明すれば認められることがあります。名古屋高裁の裁判例でも、領収書で裏付けられた約36万円のタクシー代が認められました。交渉が難しいと感じたら、弁護士に相談して主張を組み立て直すのも一つの方法です。

2-8. まとめ:交通事故の通院交通費の嘘はバレると心得る

2-8. まとめ:交通事故の通院交通費の嘘はバレると心得る

交通事故の通院交通費で嘘がバレるのは、偶然ではなく仕組みの問題です。医療機関からの報告、地図で確認できる距離、領収書、そして必要に応じた調査会社の行動調査。これらが組み合わされば、日数や距離の水増しはほぼ確実に浮かび上がります。

この記事でお伝えした要点を振り返っておきましょう。

  • 通院交通費は「必要かつ相当な実費」だけが対象で、通っていない日や実際より長い距離は最初から損害にならない
  • 東京地裁の2つの裁判例では、通院日数の水増しが不法行為と認定され、受け取った金額の返還に加えて調査費用50万円・30万円などの賠償を命じられた
  • 名古屋高裁の裁判例では、非通院日の請求、二重請求、距離の過大申告が証拠で一つずつ修正され、主張全体の信用性にも影響した
  • 虚偽申告は詐欺罪に問われる可能性があり、慰謝料など他の損害項目まで厳しく見られる
  • 自家用車は往復距離×15円、公共交通機関は実費、タクシーは必要性と領収書、徒歩はゼロというルールを守れば、堂々と請求できる
  • 明細書は記録に基づいて書き、書ききれなければ別紙を添付し、医療費控除との違いも押さえておく

正直に請求することは、決して損をすることではありません。むしろ、正しい知識があれば、駐車場代や付添人の交通費、タクシー代のように「請求できるのに見落としていた」項目を取り戻せることのほうが多いのです。あなたの通院交通費明細書は、あなたの誠実さを示す書類でもあります。

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