
レンタカーで旅行や仕事に出かけている際に、予期せぬ「もらい事故」に遭遇してしまった…。幸い大きな怪我はなかったものの、車が動かなくなり、レッカーで運ばれていった。自分は悪くないのに、なぜかレンタカー会社から「ノンオペレーションチャージ(NOC)」として5万円を請求された。
「過失割合10:0で、全面的に相手が悪いのに、なぜ私が?」
「この請求は違法ではないのか?」
「もしこのNOCを払わないとどうなるのだろうか?」
「結局、レンタカーの事故における自己負担はいくらになるんだ?」
「加入している個人賠償責任保険は使えないのか?」
そして何より、「支払ったお金を、事故を起こした相手方に請求できないのか?」
この記事は、そんな理不尽な思いと数々の疑問を抱えているあなたのためのものです。弁護士が、大阪地裁・高松高裁・札幌地裁の最新の裁判例を分析し、ノンオペレーションチャージを巡る法律問題を、どこよりも詳しく、そして分かりやすく解説します。
この記事の主要なポイント
- ノンオペレーションチャージ(NOC)の法的な正体と、過失ゼロでも支払う義務が生じる本当の理由
- NOC請求が「違法」とされない根拠と、支払いを拒否した場合の深刻なリスク
- 【最大の争点】 NOCを加害者に請求できるか?判断が真っ二つに分かれる裁判所の最新動向
- 【弁護士費用特約をお持ちの方へ】 泣き寝入りせずに専門家と問題を解決するための具体的なステップ
- 将来、同様のトラブルを回避するための最も確実で賢明な自衛策
目次
1.ノンオペレーションチャージが「もらい事故」で請求される法的根拠と仕組み

「なぜ自分が払うのか?」という怒りや疑問は一旦横に置き、まずは冷静に、「ノンオペレーションチャージ(NOC)」の正体を正確に理解することから始めましょう。このセクションでは、NOCの基本的な仕組みと、たとえあなたに全く過失がなくても支払う義務が生じてしまう、その法的なカラクリを、実際の裁判例も交えて分かりやすく解き明かしていきます。
- 1-1. そもそもノンオペレーションチャージとは?修理費や免責額との違いを整理
- 1-2. なぜ過失10:0でも支払い義務が?約款と「損害賠償額の予定」とする裁判例の視点
- 1-3. 「ノンオペレーションチャージは違法」は本当か?消費者契約法との関係
- 1-4. もしレンタカーのNOCを払わないとどうなる?契約違反と法的手続きのリスク
- 1-5. あなたの自動車保険や個人賠償責任保険は使えるのか?補償の範囲を解説
1-1. そもそもノンオペレーションチャージとは?修理費や免責額との違いを整理

多くの方が誤解されている点ですが、ノンオペレーションチャージ(NOC)は、事故で壊れたレンタカーの「修理費」ではありません。
NOCの本質は、レンタカー会社が被る「休業補償」です。つまり、あなたの利用した車両が事故によって修理や清掃が必要となり、その期間、他の顧客に貸し出すことができなくなったために生じる「営業機会の損失」に対する補償金なのです。
この点を理解するために、レンタカー事故で発生する費用と補償の関係性を整理してみましょう。
レンタカー事故における費用の全体像
費用の種類 | 内容 | 主な補償制度 |
---|---|---|
①賠償責任 | 相手の車や物、相手の怪我に対する損害賠償。 | 基本料金に含まれる保険(対人・対物無制限など) |
②車両の修理費 | 借りていたレンタカー自体の修理費用。 | 車両補償(基本料金に含まれることが多い) |
③免責額 | ②の車両補償を使う際の自己負担金(通常5万円~10万円)。 | 免責補償制度(CDW) ※有料オプション |
④休業補償 | 車両が使えない期間の営業損失。 | これがNOC(ノンオペレーションチャージ) |
NOCと他の費用の決定的な違い
上の表で最も重要なポイントは、①~③が「事故による物理的な損害や賠償」に関するものであるのに対し、④のNOCは「営業上の利益損失」という、全く性質の異なる費用であるという点です。
そのため、多くの方が加入する有料オプション「免責補償制度(CDW)」は、あくまで③の免責額をゼロにするためのものであり、④のNOCの支払い義務はなくなりません。これが、「手厚い補償に入ったはずなのに、なぜかNOCを請求された」という混乱が生じる最大の原因です。
NOCの金額は、業界でほぼ一律に定められています。
- 自走して予定の店舗に返却できた場合:20,000円
- 自走できず、レッカー等が必要な場合:50,000円
まずは、「NOC = 休業補償」というこの原則をしっかりと押さえてください。
1-2. なぜ過失10:0でも支払い義務が?約款と「損害賠償額の予定」とする裁判例の視点

「NOCが休業補償であることは分かった。でも、その休業の原因を作ったのは100%相手方なのに、なぜ私がレンタカー会社に補償しなければならないのか?」
当然の疑問です。この疑問に対する法的な答えは、あなたがレンタカーを借りる際にサイン(またはウェブサイトで同意)した「貸渡約款(レンタル契約書)」にあります。
法的根拠①:貸渡約款と「危険負担」の原則
ほとんど全てのレンタカー会社の貸渡約款には、以下のような趣旨の条項が記載されています。
「借受人は、利用中に事故、盗難、汚損などを起こし、車両の修理・清掃等が必要となった場合、その原因や過失の有無にかかわらず、営業補償の一部として当社所定のノンオペレーションチャージを支払うものとします。」
これは、民法における「危険負担」という考え方が背景にあります。
簡単に言えば、「契約の目的物(レンタカー)が、契約者双方の責任ではない理由(もらい事故など)で使えなくなった場合、その不利益(リスク)をどちらが負うか」という問題です。レンタカー契約では、この「リスク」を借主が負担するということが、契約によってあらかじめ定められているのです。
つまり、こういうことです。
あなたはレンタカー会社と「事故が起きたら、原因が誰であれ、私がNOCを支払います」という契約を結んでいる、ということになります。
法的根拠②:「損害賠償額の予定」という裁判所の解釈
このNOCの定めについて、裁判所はどのように考えているのでしょうか。
この点について非常に参考になるのが、札幌地方裁判所 令和5年1月18日判決です。
この裁判で、裁判所はNOCを「損害賠償額の予定」であると位置づけました。
【損害賠償額の予定とは?】
本来、損害賠償を請求するには、損害が現実に発生したことや、その具体的な金額を請求する側が一つ一つ証拠で証明(立証)しなければなりません。しかし、それは非常に大変な作業です。
そこで、法律(民法420条)は、将来発生するかもしれない損害について、あらかじめ「損害が発生したら、金額は〇〇円としましょう」と契約で決めておくことを認めています。これを「損害賠償額の予定」といいます。
この取り決めをしておけば、実際に損害が発生した際に、損害額をいちいち立証することなく、決められた金額を請求できるというメリットがあります。
札幌地裁は、レンタカー会社が事故のたびに「休車によって失われた利益」を正確に計算するのは非常に困難であるため、あらかじめ「自走可能なら2万円、不能なら5万円」と賠償額を定めておくNOCの仕組みは、「損害賠償額の予定」であり、有効な契約であることを前提に判断をしています。
🔑 ポイント
過失が10:0のもらい事故であってもNOCの支払い義務が生じるのは、
- あなたがレンタカー会社との間で、「原因を問わずNOCを支払う」という内容を含む貸渡約款(契約)に同意しているから。
- その契約内容は、裁判所によって「損害賠償額の予定」として有効であることを前提に判断されているから。
という、二段構えの法的根拠があるのです。
1-3. 「ノンオペレーションチャージは違法」は本当か?消費者契約法との関係

「契約だと言われても、あまりに一方的で不利益な条項だ。消費者契約法で無効にできないのか?」
法律に詳しい方であれば、当然そうお考えになるでしょう。特に、消費者契約法第9条が問題となります。
【消費者契約法 第9条(要旨)】
キャンセル料など、消費者が支払う損害賠償の額を定める条項について、その事業者に生じる「平均的な損害の額」を超える部分は、無効とする。
この条文をNOCに当てはめてみましょう。
もし、レンタカー会社の休車による平均的な損害が1万円程度しかないのに、それを大幅に超える5万円のNOCを定めているとすれば、その条項は無効になる可能性があります。
しかし、結論から言うと、現在の裁判実務においてNOCがこの条文によって無効と判断される可能性は極めて低いと言えます。
その理由は、以下のロジックにあります。
- 損害算定の困難性: レンタカーの休車損害には、単純なレンタル料金だけでなく、車両管理コスト、代替車両の手配コスト、予約機会の損失など、様々な要素が含まれ、「平均的な損害」を算出すること自体が非常に難しい。
- 金額の妥当性: 2万円または5万円という金額が、これらの様々な損害を考慮した上で、著しく高額であるとまでは言えない。
- 立証責任の所在: ある契約条項が「平均的な損害」を超えていて無効だと主張する場合、その「平均的な損害」がいくらで、NOCの金額がいかにそれを超えているかを、消費者(あなた)側が立証しなければなりません。これは非常に困難です。
これらの理由から、NOCの仕組みの合理性が認められ、消費者契約法違反とは判断しにくいのが現状です。したがって、「ノンオペレーションチャージは違法だ」という主張は、認められる可能性は低いでしょう。
1-4. もしレンタカーのNOCを払わないとどうなる?契約違反と法的手続きのリスク

「法的に有効なのは分かった。それでも納得できないから払いたくない」
そのお気持ちは痛いほど分かります。しかし、感情論で支払いを拒否した場合、あなたには相応のリスクが生じることを理解しておかなければなりません。
NOCの支払いは、貸渡約款に基づく契約上の義務です。
したがって、正当な理由なく支払いを拒否することは、明確な「契約違反(債務不履行)」となります。
NOCを支払わなかった場合に起こり得ること
督促・催告
電話や書面で繰り返し支払いを求められます。
法的手続き
支払督促の申立てや、少額訴訟・通常訴訟を提起される可能性があります。
強制執行
裁判で敗訴が確定すれば、預金口座や給与などを差し押さえられる可能性があります。
さらに、副次的なリスクとして、以下のような可能性も考えられます。
- 遅延損害金の発生: 支払期日の翌日から、年率で定められた遅延損害金が加算されます。
- 信用情報への影響: 訴訟沙汰になったり、債権が債権回収会社に譲渡されたりすると、将来のローン契約などに影響が出る可能性もゼロではありません。
- レンタカー業界のブラックリスト: 業界団体内で情報が共有され、今後他のレンタカー会社でも利用を断られる可能性があります。
【注意】
法的に支払い義務が認められている以上、支払いを拒否し続けることは、時間的・金銭的・精神的に、あなたにとってより大きな不利益をもたらす可能性が高いです。感情的に支払いを拒否するのではなく、法的な手段で相手方に請求できるかを検討する方が建設的ともいえます。
1-5. あなたの自動車保険や個人賠償責任保険は使えるのか?補償の範囲を解説

「NOCの支払いは仕方ないとして、自分の入っている保険でカバーできないのか?」
これも多くの方が抱く疑問です。残念ながら、これも期待薄と言わざるを得ません。
ご自身の自動車保険(任意保険)の「他車運転特約」
この特約は、他人の車(レンタカーを含む)を運転中の事故で、対人・対物賠償や、借りた車の修理費(車両保険)を、自分の保険でカバーできるという非常に便利なものです。
しかし、ほとんどの保険会社の「他車運転特約」では、NOCは補償の対象外とされています。
なぜ対象外なの?
理由は、これまで何度も説明してきた通り、NOCが「車両の修理費」ではなく「休業補償」という性質を持つからです。他車運転特約は、レンタカー会社の営業上の損失まではカバーしない、というのが保険会社の一般的なスタンスです。
火災保険や自動車保険に付帯の「個人賠償責任保険」
この保険は、「日常生活における偶然な事故」で、他人に損害を与えて法律上の賠償責任を負った場合に保険金が支払われるものです。
しかし、これもNOCの支払いには使えません。なぜなら、多くの個人賠償責任保険の約款では、「車両の所有、使用または管理に起因する賠償責任」は補償の対象外と明確に定められているからです。
自動車に関する事故は、自動車保険で対応するのが基本であり、個人賠償責任保険の守備範囲ではないのです。
【結論】NOCは自己の保険ではカバーできない
他車運転特約も個人賠償責任保険も、NOCの支払いには利用できないのが原則です。NOCは、レンタカー会社との契約に基づき、あなた自身が直接負担しなければならない費用である、とまずはご理解ください。
2.ノンオペレーションチャージを「もらい事故」の相手に請求できるか?

さて、ここからが本記事の核心です。前半では、NOCの支払い義務が法的に有効であることを解説しました。しかし、弁護士費用特約をお持ちのあなたが本当に知りたいのは、「では、その支払った(あるいは支払うべき)お金を、事故の元凶である加害者に請求して取り返すことはできないのか?」という点でしょう。
この問いに対する答えは、残念ながら「はい、できます」と単純に言い切れるものではありません。実は、この問題を巡っては裁判所の判断が真っ二つに分かれているのが現状です。このセクションでは、複数の実際の裁判例を解剖し、請求の可能性と、それを阻む巨大な壁、そして、その壁を乗り越えるための突破口について、深く掘り下げていきます。
- 2-1. 【最大の争点】相手方への請求は可能?判断が分かれた裁判例(高松高裁 vs 札幌地裁)
- 2-2. 請求を阻む「立証責任の壁」とは?札幌地裁令和5年判決が示す現実的な困難さ
- 2-3. 請求が認められた高松高裁令和4年判決のロジックとは?弁護士と検討する突破口
- 2-4. レンタカーの事故、NOC以外の自己負担はどこまで?弁護士費用特約で賢く備える
- 2-5. ノンオペレーションチャージ補償は必要か?紛争を避ける最善の自衛策とは
- 2-6. まとめ|ノンオペレーションチャージの「もらい事故」トラブルは、泣き寝入りせず弁護士へ
2-1. 【最大の争点】相手方への請求は可能?判断が分かれた裁判例(高松高裁 vs 札幌地裁)

ノンオペレーションチャージ(NOC)を加害者に請求できるかという点について、法律の専門家の間でも見解が分かれており、それは近年の裁判所の判断にも明確に表れています。
請求を認める方向の裁判例と、認めない方向の裁判例が存在するのです。まずは、それぞれの立場を代表する裁判例を比較してみましょう。
NOCの加害者への請求に関する裁判所の判断比較
判断 | 肯定(請求を認める) | 否定(請求を認めない) |
---|---|---|
代表的な裁判例 | 高松高等裁判所 令和4年6月16日判決 (その他、大阪地裁H12、札幌地裁R6など) |
札幌地方裁判所 令和5年1月18日判決 |
NOCの法的性質 | 「反射的損害」としつつも、事故との相当因果関係を肯定。 | 「反射的損害」「損害賠償額の予定」とし、事故との相当因果関係を否定。 |
判断の核心 | レンタカー利用の普及により、加害者はNOC発生を予見可能。NOCの支払債務自体が損害である。 | レンタカー会社に「実際の休車損害」が発生したことを利用者が立証しない限り、請求は認められない。 |
裁判所のスタンス | 被害者救済を重視し、現代社会の実情に合わせた柔軟な判断。 | 厳格な法理論を重視し、当事者間の契約(NOC)の効力は第三者(加害者)に及ばないという原則的な判断。 |
このように、同じ「NOCの請求」という事案でも、どの裁判官が、どのような法的ロジックを重視するかによって、結論が180度変わってしまう可能性があるのです。
これは、裏を返せば、安易に諦める必要はなく、弁護士と共に適切な主張と立証を行えば、請求が認められる可能性があることを示唆しています。以下では、それぞれの判断の詳しい理由を掘り下げていきましょう。
2-2. 請求を阻む「立証責任の壁」とは?札幌地裁令和5年判決が示す現実的な困難さ

まず、NOCの加害者への請求に厳しい立場をとった、札幌地方裁判所 令和5年1月18日判決のロジックを見ていきましょう。この判決は、なぜ請求が難しいのかを理解する上で非常に重要です。
この裁判所が請求を認めなかった最大の理由は、「立証責任の壁」です。
立証責任の壁って、具体的にどういうこと?
裁判の原則として、何かを請求する側(この場合はあなた)は、その請求の根拠となる事実を証拠によって証明する責任(=立証責任)を負います。札幌地裁は、NOCの請求について、大要、以下のように考えました。
札幌地裁令和5年判決のロジック
- あなたが支払うNOCは、あくまでレンタカー会社とあなたの間の契約(損害賠償額の予定)に基づくもの。
- あなたが加害者に対して損害賠償請求できるのは、事故によって直接の被害者(レンタカー会社)に発生した損害に限られる。
- つまり、あなたが請求できるのは、レンタカー会社が実際に被った「休車損害」そのものである。
- したがって、請求者であるあなたは、加害者に対し、「レンタカー会社に、現実に休車損害が発生したこと」と「その具体的な損害額」を、証拠をもって立証しなければならない。
そして、この「レンタカー会社に休車損害が発生したことの立証」が、個人にとっては高いハードルなのです。なぜなら、それを証明するためには、以下のようなレンタカー会社の完全な内部情報を入手し、証拠として提出する必要があるからです。
- 代替車両の不存在の証明: 事故車の修理期間中、その営業所に貸し出せる他の車(遊休車)がなかったことの証明。
- 車両稼働率の証明: 事故がなければ、その車が確実に他の客に貸し出されていたはずであることの証明(例:営業所の全車両の稼働率が100%に近いなど)。
- 具体的な逸失利益の証明: その車が貸し出されていた場合に得られたはずの、具体的な利益額の計算書。
【現実】
一人の利用者が、レンタカー会社にこれらの内部情報の開示を求め、それを入手することは、困難です。協力的な会社はまずありません。その結果、立証ができず、請求が認められない、という結論に至るのです。これが、札幌地裁が示した「立証責任の壁」の正体です。
この判決は、NOC補償制度に加入していれば、そもそも利用者はこのようなリスクを負う必要がなかった点にも言及しており、利用者側のリスク管理の重要性も示唆しています。
2-3. 請求が認められた高松高裁令和4年判決のロジックとは?弁護士と検討する突破口

一方で、この「立証責任の壁」に風穴を開け、加害者への請求を認めた判断が、高松高等裁判所 令和4年6月16日判決です。この判決は、被害者救済の観点から、加害者側と交渉する上で強力な武器となり得ます。
高松高裁は、札幌地裁とは全く異なるアプローチをとりました。
高松高裁令和4年判決のロジック
- NOCは、レンタカー会社の休車損を利用者が肩代わりする「反射的損害」である点は認める。
- しかし、現代社会において、公道を走る車の中にレンタカーが含まれていることは誰でも知っている公知の事実である。
- したがって、加害者は、レンタカーに損害を与えれば、その利用者がNOCのような契約上の負担を強いられることを十分に予見できる。
- NOC制度自体も、業界で広く普及しており、その内容も不合理なものではない。
- よって、利用者が負ったNOCの支払義務(または実際に支払った金額)は、加害者の事故と「相当因果関係」のある損害として認められるべきである。
🔑 この判決のポイント
高松高裁の判断は、札幌地裁のように「レンタカー会社の実際の損害」の厳密な立証を求めるのではなく、「利用者がNOCの支払義務を負った」という事実そのものを損害として捉え、事故との因果関係を認めた点に大きな特徴があります。
これは、被害者の立証責任を大幅に軽減し、より現実的な被害者救済への道を開くものと言えます。
これが「突破口」になるということですね!
その通りです。加害者側が「札幌地裁の判例によれば、休車損害が立証されない限りNOCは支払えません」と主張してきた場合でも、弁護士は「いや、高松高裁の判例では、NOCの支払債務そのものが相当因果関係のある損害と認められている」と、法的な根拠をもって反論することが可能になります。
このように、裁判例の判断が分かれている状況だからこそ、あなたに有利な判例を基に交渉を進める価値が生まれるのです。
2-4. レンタカーの事故、NOC以外の自己負担はどこまで?弁護士費用特約で賢く備える

レンタカー事故における自己負担は、NOCだけとは限りません。状況によっては、以下のような費用も発生する可能性があります。
- 免責額: 免責補償制度(CDW)に未加入だった場合の車両修理費の自己負担分(5万~10万円)。
- 保険適用外の損害:
- タイヤのパンク、ホイールキャップの紛失
- 鍵の紛失
- 車内の甚だしい汚損・臭気
- その他、約款で定められた保険・補償の対象外となる損害
これらの費用も、事故に起因するものであれば、加害者に対して損害賠償請求できる可能性があります。しかし、これもまた、加害者側の保険会社や、加害者本人との交渉が必要となり、すんなり認められるとは限りません。
ここで輝く「弁護士費用特約」の価値
あなたがご加入の自動車保険に「弁護士費用特約」が付帯していれば、話は大きく変わります。
この特約を利用すれば、通常300万円を上限として、弁護士への相談料や依頼費用が保険で賄われます。つまり、あなたは自己負担ゼロで、これら一連の複雑な問題を、すべて交通事故の専門家である弁護士に一任できるのです。
- NOCを加害者に請求するための交渉・訴訟
- その他の自己負担費用に関する損害賠償請求
- 加害者側の保険会社との、あなたに有利な判例を用いた法的議論
これらすべてを、専門家があなたの代理人として行ってくれます。「もらい事故」の被害者であるあなたが、これ以上時間や労力を奪われる必要はありません。まずはご自身の保険証券を確認し、弁護士費用特約の有無をチェックしてみてください。
2-5. ノンオペレーションチャージ補償は必要か?紛争を避ける最善の自衛策とは

これまでの議論を踏まえ、「ノンオペレーションチャージ補償は必要か?」という問いに対しては、どんな答えとなるのでしょうか。
答えは、「NOCを巡る法的な紛争のリスクとコストを考えれば、それを未然に防ぐための自衛策を講じておくことが望ましい」です。
加害者への請求が認められる可能性は確かに存在します。しかし、それは裁判所の判断次第という不確実なものであり、認められるまでには多大な時間と労力、そして弁護士費用特約がなければ高額な費用がかかります。
紛争を避けるための、最も確実・簡単・安価な自衛策
レンタカーを借りる際に、
「NOC補償制度」に加入すること
これは、1日あたり数百円~千円程度の追加料金で、万が一の際にNOCの支払いが全額免除されるオプション制度です。
会社によって名称は様々ですが、「免責補償(CDW)」とは別の制度ですので、必ず「NOCの支払いが免除されるか」を確認して加入してください。
事故が起こらなければそれに越したことはありません。しかし、わずかな追加料金を惜しんだために、数万円の出費と、解決までに数ヶ月以上かかるかもしれない法的な紛争に巻き込まれるリスクを考えれば、ノンオペレーションチャージ補償制度に加入しておくことが安心でしょう。
2-6. まとめ|ノンオペレーションチャージの「もらい事故」トラブルは、泣き寝入りせず弁護士へ

最後に、本記事の重要なポイントをまとめます。
- NOCの支払い義務は契約上有効: 過失が10:0の「もらい事故」であっても、レンタカーの貸渡約款に基づき、NOCの支払い義務は原則として発生します。これは裁判所も認めており、「違法」ではありません。
- 加害者への請求は判断が分かれる: 支払ったNOCを加害者に請求できるかについては、裁判所の判断が分かれています。「休車損害の立証が必要」として請求を認めない厳しい判例(札幌地裁R5)がある一方、「予見可能な損害」として請求を認める判例(高松高裁R4)も存在します。
- 弁護士費用特約が強力な武器に: このように法的な判断が分かれる状況だからこそ、専門家である弁護士の出番です。弁護士費用特約があれば、自己負担なく、あなたに有利な判例を基に加害者側と交渉・訴訟を進めることができます。
- 自衛策はNOC補償制度: 法的紛争の不確実性とコストを考えれば、最も安心なリスク管理は、レンタカー契約時に「NOC補償制度」に加入し、紛争の種を未然に摘んでおくことです。
もらい事故でのノンオペレーションチャージの問題で、一人で悩む必要はありません。まずはご自身の保険に弁護士費用特約が付いているかを確認し、交通事故に強い弁護士に相談してみると良いでしょう。