【弁護士が解説】物損事故で修理しない選択肢も!賢く賠償金を手にする全知識

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物損で修理しない場合の解説

交通事故で車が損傷した時、「絶対に修理しないといけない」と思い込んでいませんか?実は、修理しないという選択肢も存在し、場合によってはその方が賢明な判断となることもあります。この記事では、「物損事故で修理しない」という選択に焦点を当て、法的な権利、手続き、注意点、そして弁護士の活用方法まで、あらゆる角度から徹底的に解説します。保険会社との交渉で損をしないための知識を身につけ、あなたにとって最善の選択をしましょう。

【この記事で得られる知識】

  • 物損事故で車を修理しない場合の法的権利
  • 修理しない場合のメリットとデメリット
  • 賠償金(保険金)を最大限に受け取るための交渉術
  • 保険会社との交渉で役立つ知識
  • 弁護士費用特約の活用方法

こんな方におすすめの記事です】

  • 物損事故に遭って、修理するかどうか迷っている方
  • 修理せずに賠償金(保険金)を受け取りたい方
  • 保険会社との示談交渉を有利に進めたい方
  • 弁護士費用特約について詳しく知りたい方

目次

1. はじめに・・物損事故で修理しない選択肢

交通事故は、誰もが遭遇する可能性のある出来事です。特に、車社会である現代において、物損事故は日常的に発生しています。

もし、あなたが物損事故に遭い、愛車が損傷してしまったら、どうしますか?多くの方は、「修理しなければ」と考えるのではないでしょうか。

しかし、ちょっと待ってください。

実は、物損事故の場合、必ずしも修理することが最善の選択とは限りません。損傷の程度や、車の状況、あなたのライフスタイルによっては、「修理しない」という選択肢も十分に考えられます。

例えば、

  • バンパーに少し擦り傷がついた程度で、走行には全く支障がない場合
  • トラックや営業車で、安全性に影響がなければ修理しなくても問題ない場合
  • 近々、車を買い替える予定がある場合
  • 修理費用が高額で、車の時価額を上回ってしまう場合(経済的全損)
  • 修理費用を、他の用途に使いたい場合

など、様々なケースが考えられます。

「修理しない」という選択をした場合、気になるのは、「賠償金(保険金)はどうなるのか?」ということでしょう。

ご安心ください。

物損事故で車を修理しない場合でも、修理費用相当額の賠償金(保険金)を受け取ることは可能です。これは、法律で認められた正当な権利です。

しかし、保険会社との交渉は、簡単ではありません。保険会社は、支払う賠償金を抑えようとする傾向があるため、専門的な知識がないと、不利な条件をのまされてしまう可能性があります。

そこで、この記事では、物損事故で「修理しない」という選択肢に焦点を当て、

  • 修理しない場合の法的な権利
  • 賠償金(保険金)を受け取るための具体的な手続き
  • 保険会社との上手な交渉術
  • 弁護士費用特約の活用方法

などについて、弁護士が徹底的に解説します。

この記事を読めば、物損事故で「修理しない」という選択肢について、あらゆる角度から理解を深めることができます。そして、保険会社との交渉で損をすることなく、あなたにとって最善の選択をするための知識を身につけることができます。

さあ、一緒に、物損事故で「修理しない」という選択について、詳しく見ていきましょう。

2.【基本編】物損事故で修理しない場合の賠償請求の仕組み

【基本編】物損事故で修理しない場合の賠償請求の仕組み

まずは、物損事故で車を修理しない場合の基本的な考え方と、賠償請求の仕組みについて解説します。法的な権利や、保険会社との関係など、知っておくべき基礎知識をしっかりと押さえましょう。

2-1. 修理しない選択はアリ?法的根拠と損害賠償の考え方

修理しない選択はアリ?法的根拠と損害賠償の考え方

物損事故に遭った際、多くの人は「車を修理しなければならない」と考えがちですが、実は、必ずしも修理が義務ではありません。法律のどこを探しても、「物損事故の被害者は、必ず車を修理しなければならない」という条文は存在しないのです。

なぜなら、交通事故における損害賠償は、金銭による賠償が原則だからです(民法709条)。被害者は、事故によって被った損害を、金銭に換算して加害者に請求する権利があります。この「損害」には、車の修理費用だけでなく、車の価値の減少分(いわゆる評価損)、レッカー代、代車費用なども含まれます。

そして、受け取った賠償金をどのように使うかは、被害者の自由です。修理費用に充てても良いですし、別の用途に使っても構いません。修理をせずに、そのままにしておくことも、法的には全く問題ありません。

ただし、安全に関わる損傷の場合は注意が必要です。例えば、以下のようなケースでは、安全確保の観点から、修理を検討すべきでしょう。

  • フレームの歪み: 車体の骨格部分であるフレームが歪んでいると、走行安定性が損なわれ、事故のリスクが高まります。
  • 足回りの損傷: サスペンションやタイヤ、ホイールなどに損傷があると、正常な走行が困難になる場合があります。
  • ブレーキの故障: ブレーキが正常に作動しないと、重大な事故につながる可能性があります。
  • 灯火類の損傷: ヘッドライトやテールランプ、ウインカーなどが正常に点灯しないと、周囲の車や歩行者に危険を及ぼす可能性があります。

また、車検に通らない状態で公道を走行することは、道路運送車両法違反となります。車検の有効期限が切れていないか、損傷が車検の基準に適合しているかを確認しましょう。

2-2. 修理しなくても賠償金はもらえる?裁判例は?消費税は?

「修理しないのに、なぜ賠償金がもらえるの?」と疑問に思う方もいるかもしれません。交通事故によって損傷した車両の修理がなされていない場合、損害賠償の対象とすべきではないと主張されることがあります。

しかし、裁判例は、「原告車両が本件事故によって現実に損傷を受けているものである以上、これによる損害は既に発生しているものというべきであ」るとしています(大阪地裁平成10年2月24日判決)。

なお、未修理である場合、相手保険から、修理していない以上、消費税は損害に含まれない、消費税を控除した修理費しか認めないと主張されることがありますが、裁判例は、未修理の場合でも消費税を損害に含めています。

なお、代車料(レンタカー代)については、実務では、実際に代車を使用していない状態では、代車料を損害として認めていません(見積だけではだめということです)。すなわち、仮定的代車料なるものは、裁判例においても基本的に認められていませんので、注意が必要です。

2-3. 加害者になった場合:相手が修理を拒否したらどう対応する?

加害者になった場合:相手が修理を拒否したらどう対応する?

自分が交通事故の加害者になってしまった場合、被害者(相手方)が車の修理を拒否することがあります。この場合、どのように対応すれば良いのでしょうか?

もちろん、修理するかしないかは自由ではあるのですが、気になるようでしたら、相手が修理を拒否する理由を、自分の加入する保険会社に確認してみると良いかもしれません。主な理由としては、以下のようなものが考えられます。

  • 経済的な事情: 修理費用を一時的に立て替える余裕がない。
  • 買い替え予定: 近いうちに車を買い替える予定なので、修理する意味がないと感じている。
  • 軽微な損傷: 損傷が軽微で、走行に支障がないため、修理の必要性を感じていない。
  • 感情的な理由: 事故のショックや、加害者に対する不信感から、修理を拒否している。
  • 戦略的な理由: 修理費用よりも高額な賠償金を請求しようとしている。

修理しない場合でも、保険会社は、写真見積ないし認定見積という方法で、修理費を算出してくれます。保険会社は、物損事故において、相手方との交渉や、損害賠償の手続きを代行してくれます。

相手が修理を拒否した場合でも、損害賠償の義務がなくなるわけではありません。相手から損害賠償請求があった場合は、保険会社を通じて適切に対応する必要があります。

注意点としては、不当に高額な賠償金を請求してくるケースもあることです。例えば、課題と思われる見積を出して来たり、事故とは関係のない損傷まで含めて請求してきたり、相場よりも著しく高額な修理費用を請求してきたりするケースがあります。このような場合は、保険会社や弁護士に相談し、適切な対応を取ることをお勧めします。

2-4. 損保ジャパンの場合:車両保険で修理しない場合の注意点

損保ジャパンに限らず、ほとんどの保険会社で、車両保険を使って修理しない場合でも、保険金を受け取ることができます。車両保険を使う場合、車両保険による修理費の協定が行われます。

ただし、いくつかの注意点があります。

  • 免責金額: 契約内容によっては、車両保険に免責金額(自己負担分)が設定されており(例えば、5万円や、10万円など。免責を付けた方が、車両保険は安くなるのです)、車両保険を使う場合、自己負担分が発生することがあります。免責が5万円の場合、5万円を超える修理費については、車両保険で出ますが、5万円については自分で支払う必要があります。
  • 特約の適用: 「代車費用特約」や「レンタカー費用特約」など、修理を前提とする特約は、修理しない場合には適用されないことが一般的です。
  • 保険金請求の手続き: 修理しない場合でも、保険金を請求するためには、所定の手続きが必要です。保険会社に連絡し、必要な書類(保険金請求書など)を提出しましょう。
  • 等級ダウン:車両保険を使った場合、通常3等級ダウンとなり、保険料が上がります。車両保険を使った方がいいか、使わない方がいいかは、保険会社がシミュレーションを出してくれますので、ご自分の加入する保険会社に、相談してみましょう。

2-5. 100対0の事故で修理しない場合のメリット・デメリット

100対0の事故で修理しない場合のメリット・デメリット

自分に過失がない「100対0」の事故の場合、修理しないという選択には、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか?

メリット

  • 修理費用相当額を自由に使える:受け取った賠償金は、修理費用として使う必要はありません。車の買い替え資金に充てたり、他の用途に使ったり、自由に使うことができます。これは、修理しない場合の最大のメリットと言えるでしょう。また、安く修理してくれる工場を探す自分で簡単な修理をするということもできます。
  • 修理期間を気にしなくて良い:車を修理工場に預ける必要がないため、修理期間中の代車の手配や、交通手段の心配をする必要がありません。仕事や日常生活への影響を最小限に抑えることができます。
  • 手続きが簡単:修理をする場合は、修理工場の選定、入庫、車の引き取りなど、様々な手続きが必要になります。修理しない場合は、これらの手続きを一定程度、省略することができます。

デメリット

  • 車の価値が下がる:損傷が残ったままになるため、将来的に車を売却する際の査定額が下がる可能性があります。特に、外観上の損傷は、査定額に大きく影響することがあります。
  • 損傷が悪化するリスク:小さな傷や凹みでも、放置することで錆が発生したり、ひび割れが広がったりする可能性があります。損傷が悪化すると、修理費用が高額になるだけでなく、安全性にも影響が出る場合があります。修理しないことで損傷が拡大した場合、正当な理由がない限り、拡大した損傷を請求することは困難です。
  • 安全上の問題:外見上は問題ないように見えても、内部に構造的な損傷がある場合は、走行性能が低下したり、事故のリスクが高まったりする可能性があります。

2-6. 物損事故で修理費だけもらうことはできますか?具体的な方法と注意点を解説

「修理はしたくないけど、修理費相当額の賠償金だけは受け取りたい」という場合、具体的にどのような手続きを踏めば良いのでしょうか?

  • 事故状況の記録:まず、事故現場の写真、双方車両の損傷写真を撮影し、相手方の連絡先、保険会社などを記録しておきます。
  • 保険会社への連絡:相手の保険会社に連絡し、事故の状況を報告するとともに、「修理せずに修理費相当額の賠償金を受け取りたい」という意思を伝えます。0:100の事故の場合、自らが窓口になり交渉する必要があります。こちらにも過失が発生するのであれば、自分の保険会社の物損担当者が窓口になります。
  • 修理見積もりの取得:信頼できる修理工場(ディーラーや、技術力の高い整備工場など)に依頼し、詳細な修理見積書を作成してもらいます。この見積書が、賠償金額を決定する上での重要な根拠となります。
    • 複数の見積もり: 可能であれば、複数の修理工場から見積もりを取り、比較検討することをお勧めします。
    • 見積書の内容: 見積書には、以下の内容が明確に記載されていることを確認しましょう。特に、修理箇所に漏れがないか、要確認です。
      • 損傷箇所(できるだけ詳細に)
      • 修理内容(部品交換、板金塗装など)
      • 部品代、工賃、塗装代などの内訳
      • 消費税
      • 見積もり作成日
      • 修理工場の名称、所在地、連絡先
  • 保険会社との交渉:取得した修理見積書を保険会社に提出し、賠償金額について交渉します(なお、こちらから必ずしも見積書を提出する必要はなく、写真を提出すれば、写真見積を出してくれることもあります。ただし、写真見積は、写真から判断する訳ですから、金額が低くなってしまうことが多いです)。保険会社は、提出された見積もりを基に査定を行い、賠償金額を提示してきます。提示された金額に納得できない場合は、根拠を示して再交渉しましょう。
  • コーティングについては、施工証明が必要です。
  • 示談成立:賠償金額に合意したら、保険会社から示談書が送られてきます。示談書の内容をよく確認し、問題がなければ署名・捺印します。なお、保険会同士のやり取りでは、口頭示談として、示談書省略シートのやりとりだけで示談成立とされることが多いです。
  • 賠償金の受け取り:示談成立後、通常は1週間~2週間程度で、指定した口座に賠償金が振り込まれます。

注意点

  • 保険会社は修理費を低く見積もる傾向がある: 保険会社は、支払う賠償金を抑えるために、修理費用を低く見積もろうとすることがあります(特に、写真見積・認定見積の場合)。安易に妥協せず、こちらからも見積もりを取るなどして、適正な金額を主張しましょう。
  • 過失割合:自分にも過失がある場合は、その割合に応じて賠償金が減額されます。保険会社から提示された過失割合に納得できない場合は、根拠を示して反論しましょう。過失割合に納得できない場合、弁護士費用特約があれば、弁護士に相談してみるのも手です。
  • 時価額:修理費用が車の時価額を大幅に上回る場合は、「経済的全損」として扱われ、修理費用の全額が支払われないことがあります。賠償としては、時価額(+買替諸費用)にとどまります。

2-7. ディーラーに見積もりだけ依頼する際のポイント

修理をするかどうか決めていない段階で、「とりあえずディーラーに見積もりだけ依頼したい」という場合もあるでしょう。ディーラーに見積もりだけを依頼する際には、以下の点に注意しましょう。

  • 事前に連絡する:いきなり訪問するのではなく、事前に電話などで連絡し、「修理をするかどうかは未定だが、見積もりだけ作成してほしい」という旨を明確に伝えましょう。
  • 事故の状況を詳しく説明する:事故の状況(いつ、どこで、どのように発生したか)や、損傷の程度などを詳しく説明しましょう。
  • 写真を持参する:損傷箇所の写真を持参すると、より正確な見積もりを作成してもらうことができます。
  • 見積もり費用を確認する:ディーラーによっては、見積もり作成に費用がかかる場合があります(無料で作成してくれるところを選びましょう。見積作成費用は、通常認められません)
  • 見積書の内容を確認する:見積書を受け取ったら、内容をよく確認し、不明な点があれば質問しましょう。特に、以下の点に注意しましょう。
    • 損傷箇所が全て記載されているか
    • 修理内容(部品交換、板金塗装など)が明確に記載されているか
    • 部品代、工賃、塗装代などの内訳が詳細に記載されているか
    • 純正部品を使用するかどうかが明記されているか

ディーラーの見積もりは、一般的に修理工場よりも高額になる傾向がありますが、保険会社との交渉においては、信頼性の高い証拠として認められやすくもある一方、金額が高額だと言われることもあります。

2-8. 全損の場合は?修理せずに買い替える選択肢と注意点

事故によって車が「全損」と判断された場合、修理は現実的な選択肢ではなくなります。「全損」とは、修理費用が車の時価額を上回る状態のことです。

全損の場合、多くのケースでは、修理せずに廃車にするか、新しい車に買い替えることになります。この場合、車両損害としては、車の時価額(+買替諸費用)にとどまります。

買い替えの手順

  • 全損の確認:保険会社から「全損」と判断されたら、その旨を確認します。
  • 時価額の確認:保険会社から提示された時価額を確認します。レッドブックの場合、消費税が加算されていませんから、注意です。こちらは、同種・同等・同走行距離の車両の市場価格を調査し、少しでも時価額を上げていきましょう。その結果、分損(時価額よりも、修理費の方が安い)と判断されることもあります。
  • 代替車両の選定:買替するかももちろん自由ですが、賠償金がいくらになるのかを考慮して、足が出ないようにしましょう。
  • 賠償金の受け取り:保険会社との間で示談が成立したら、賠償金を受け取ります。
  • 事故車の処分:全損の場合、保険会社が事故車を引き取るとこがありますが、現在では少なくなってきているようです。

注意点

  • ローン残債:事故車にローンが残っている場合は、注意が必要です。保険金だけではローンを完済できない場合、自己資金で不足分を補填するか、新たなローンを組む必要があります。
  • 買替諸費用:新しい車(中古車含む)を購入する際には、車両本体価格以外にも、税金、保険料、登録費用などの諸費用がかかります。全損の場合は、買替諸費用も請求できます。これは請求していない人も多いので、注意が必要です。
  • 事故車の処分:保険会社が事故車を引き取らない場合は、自分で処分する必要があります。廃車手続きや、売却先を探す手間がかかる場合があります。なお、廃車費用も、事故との相当因果関係がある損害となります。

3. 【実践編】物損事故で修理しない場合の交渉術と注意点

【実践編】物損事故で修理しない場合の交渉術と注意点

ここでは、物損事故で車を修理しない場合に、保険会社とどのように交渉すれば良いのか、具体的なテクニックと注意点を解説します。また、弁護士の活用方法についても詳しく説明します。

3-1. 先行協定って何?修理しない場合でも知っておくべきこと

「先行協定(事前協定)」とは、保険会社と修理工場が、修理を行う前に、修理内容や費用について事前に合意することを言います。

通常、先行協定は、修理工場が作成した見積書を基に、保険会社のアジャスター(損害調査員)が修理内容や費用を査定し、修理工場と協議して金額を決定します。

修理しない場合でも、先行協定が賠償金額に影響を与える可能性があるため、注意が必要です。

例えば、あなたが修理を希望しない場合でも、保険会社は、先行協定で合意した金額を基に賠償金額を提示してくることがあります。この金額は、あなたが独自に取得した修理見積もりよりも低い場合があります。

このような場合、あなたは、先行協定に拘束されることなく、自分の取得した見積もりを根拠に、保険会社と交渉することができます。しかし、アジャスターも損害調査の専門家であり、保険会社は、先行協定の金額を簡単には譲歩しない可能性が高いため、交渉が難航することも予想されます。

先行協定は、あくまでも保険会社と修理工場の間の取り決めであり、被害者を法的に拘束するものではありません。しかし、保険会社との交渉をスムーズに進めるためには、先行協定の存在を理解し、適切な対応を取ることが重要です。

3-2. 車両保険で現金だけ受け取るリスクと対策

自分の車両保険を使って、修理せずに現金(保険金)だけを受け取る場合、以下のようなリスクがあります。

  • 等級ダウン:車両保険を使うと、翌年度の保険等級が下がり、保険料が上がります。一般的に、1回の事故で3等級ダウンすることが多く、保険料の割引率が大幅に減少します。
  • 保険会社の査定額は低い場合がある:保険会社は、支払う保険金を抑えるために、修理費用や時価額を低く見積もる傾向があります。特に、古い車や過走行車の場合、部品の減価償却が考慮され、査定額が低くなることがあります。
  • 将来の売却時に不利になる:事故歴がある車は、将来的に売却する際の査定額が下がる可能性があります。特に修復歴として表示義務がある部分を損傷した場合、事故歴を隠すことはできません。
  • 同じ箇所の再請求はできない:一度、車両保険から保険金を受け取ると、あたりまえですが、後日、同じ箇所の損傷について、再度保険金を請求したり、相手に請求することはできません。

対策

  • 軽微な損傷は自己負担も検討:修理費用が少額の場合は、保険を使わずに自己負担で修理することも検討しましょう。保険料の値上がりを考慮すると、自己負担の方が結果的に安く済む場合があります。
  • 複数の見積もりを取る:査定額に疑問がある場合、適正かどうかを確認するために、自分で修理工場から見積もりを取ることを検討して良いでしょう。
  • 弁護士に相談する:保険会社との交渉が難航する場合や、提示された金額に納得できない場合は、弁護士に相談しましょう。弁護士は、専門的な知識と交渉力で、あなたの権利を守ってくれます。
  • 部分修理も検討する:必ずしも全ての損傷を修理する必要はありません。安全性に影響のない範囲で、部分的に修理をしないという選択肢も検討しましょう。

3-3. 納得できない修理代…保険会社との上手な交渉術

納得できない修理代…保険会社との上手な交渉術

保険会社から提示された修理代(賠償金額)に納得できない場合、どのように交渉すれば良いのでしょうか?

交渉のポイント

  • 冷静になる:感情的にならず、冷静に交渉に臨みましょう。
  • 根拠を示す:なぜ納得できないのか、具体的な根拠を示しましょう。
    • 複数の修理工場の見積書: 保険会社の査定額よりも高い見積もりを複数提示する
    • 事故直後の写真: 損傷の程度を客観的に示す
    • 修理に関する資料: 修理内容や部品の価格に関する資料(カタログなど)
  • 専門用語を理解する:「全損」「分損」「格落ち」「時価額」「アジャスター」など、保険会社との交渉でよく使われる用語を理解しておきましょう。
  • 妥協点を探る:必ずしも自分の主張が100%通るとは限りません。ある程度の妥協も視野に入れ、落としどころを探りましょう。
  • 粘り強く交渉する:一度断られても諦めず、根拠を示して再度交渉しましょう。保険会社の担当者は交渉のプロであり、簡単には譲歩しません。
  • 上位者に相談する:担当者レベルで話が進まない場合は、上司や苦情窓口に相談することも検討しましょう。
  • 弁護士に相談する:交渉が難航する場合や、法的な問題が絡む場合は、弁護士に相談しましょう。

交渉の際の注意点

  • 「言った言わない」を防ぐ:重要な内容は、口頭だけでなく、書面(メールなど)で記録を残しましょう。
  • 安易に示談書にサインしない:示談書の内容をよく確認し、不明な点があれば質問しましょう。納得できない場合は、サインを保留しましょう。
  • 自分でも資料を用意する:修理費の精査や、市場における時価額の調をしましょう。また、全損の場合、買替諸費用を請求するためには、同種・同等・同走行距離の車両を購入する場合の見積を作成しておくと、買替諸費用の算定に便利です。

3-4. 相手が修理費の見積もりを出さない…どうすればいい?

事故の相手方が、なかなか修理費の見積もりを提出してくれない場合、どのように対処すれば良いのでしょうか?

考えられる理由

  • 金銭的な事情: 修理費用を捻出できず、修理予定がない。
  • 買い替え予定: 近いうちに車を買い替える予定なので、修理するつもりがない。
  • 時間がない: 忙しくて修理工場に行く時間がない、または、修理の手続きを面倒に感じている。
  • 戦略的な理由: 賠償金を少しでも減らすか、増額したい、または、交渉を長引かせて有利な条件を引き出したい。
  • 事故との因果関係を曖昧にしたい: 事故とは関係のない傷まで含めて請求しようとしている。

対処法

  • 催促する:まずは、保険会社を通じて、電話やメールなどで、見積もりの提出を催促しましょう。
  • 記載内容:
    • 事故の概要(発生日時、場所、当事者など)
    • 見積もり提出のお願い
    • 提出期限(〇月〇日まで、など具体的に記載)
    • 期限内に提出がない場合の対応(法的手段を検討する旨など)
  • 保険会社に相談する:自分の加入している保険会社に相談し、対応をアドバイスしてもらいましょう。自分にも過失が発生する場合、保険会社は、相手方との交渉を代行してくれます。
  • 弁護士に相談する:相手方がどうしても見積もりを提出しない場合や、不当な要求をしてくる場合は、弁護士に相談しましょう。弁護士は、内容証明郵便の作成や、相手方との交渉、法的手続きなどを代行してくれます。
  • 代替見積もりを取得する:相手方の車が修理工場に入庫している、損傷写真があるなど、こちら側で修理見積もりを取得・作成することも検討します。通常、自分の保険会社の担当者が検討してくれるでしょう。

3-5. 過失割合で損をしないために!確認すべきポイントと対処法

過失割合は、交通事故の責任が、加害者と被害者のそれぞれにどれだけあるかを示す割合です。過失割合は、賠償金額に大きく影響するため、非常に重要な要素です。

例えば、損害額が100万円で、あなたの過失割合が20%だとすると、あなたが受け取れる賠償金は80万円(100万円 × (100% – 20%))になります。

他方、相手方の損害が50万円で、あなたの過失割合が20%とすると、あなたは、10万円を相手方に支払うことなります(いわゆるクロス払い。相殺払いとすることも可能です。支払額に応じて、自分の対物保険を使用するかを検討します)。

保険会社は、過去の事故の判例や、事故現場の状況などを基に過失割合を決定し、提示してきます。しかし、保険会社が提示する過失割合が、必ずしも正しいとは限りません。

確認すべきポイント

  • 事故状況:事故現場の状況(道路の幅、見通し、信号の有無など)、お互いの車の速度、位置関係などを詳しく確認しましょう。
  • 過失割合の根拠:保険会社が提示した過失割合の根拠を詳しく説明してもらいましょう。
  • 過去の判例:類似の事故の判例を調べ、自分のケースと比較してみましょう。(弁護士に相談すれば、適切な判例を調べてくれます)
  • ドライブレコーダーの映像:ドライブレコーダーを搭載している場合は、映像を証拠として提出しましょう。
  • 目撃者の証言:目撃者がいる場合は、証言を記録しておきましょう。

対処法

  • 証拠を集める:過失割合に納得できない場合は、上記のような証拠を集め、保険会社に提示しましょう。
  • 保険会社と交渉する:証拠を基に、保険会社と粘り強く交渉しましょう。
  • 弁護士に相談する:交渉が難航する場合や、法的な問題が絡む場合は、弁護士に相談しましょう。弁護士は、専門的な知識と交渉力で、あなたの過失割合を適正なものにするために尽力してくれます。

3-6. 車の時価額と修理費用、賠償金はどう関係する?

車の「時価額」とは、事故直前のその車の市場価値のことです。中古車市場で、同じ車種、年式、走行距離、状態の車を購入する場合の価格が目安となります。

時価額は、賠償金額を決定する上で、重要な要素となります。

時価額と修理費用の関係

  • 修理費用が時価額を下回る場合:原則として、修理費用が賠償されます。「分損」といいます。
  • 修理費用が時価額を上回る場合(経済的全損):修理費用は賠償されず、時価額相当の金額+買替諸費用)が賠償されます。

なぜ時価額が上限になるのか?

これは、「損害賠償は、被害者に生じた損害を填補するものであり、被害者に利益を与えるものではない」という考え方に基づいています。

例えば、時価額50万円の車に事故で100万円の修理費用がかかる場合を考えてみましょう。もし100万円の修理費用を全額賠償してしまうと、被害者は、事故前の車の価値(50万円)よりも多くの金額(100万円)を受け取ることになり、結果的に利益を得てしまうことになります。これは、損害賠償の趣旨に反します。

時価額の確認方法

  • 中古車販売サイト:インターネットの中古車販売サイトで、自分の車と同じ車種、年式、走行距離の車を検索し、価格を調べます。カーセンサーグーネットが良く使われています。
  • 中古車販売店:中古車販売店に査定を依頼します。
  • オートガイド自動車価格月報(レッドブック):中古車の取引価格をまとめた資料です。図書館などで閲覧できます。
  • 保険会社に確認:保険会社に時価額の算定根拠を問い合わせます。

3-7. 弁護士費用特約は強い味方!活用方法と注意点

弁護士費用特約は強い味方!活用方法と注意点

弁護士費用特約は、自動車保険や火災保険などに付帯できる特約で、交通事故の被害に遭った際に、弁護士に相談・依頼する費用を保険会社が負担してくれるものです。

メリット

  • 費用負担の軽減:弁護士費用特約を使えば、自己負担なし、または少額の負担で弁護士に依頼できます。
  • 専門家によるサポート:交通事故に詳しい弁護士のサポートを受けることで、適正な賠償金を獲得できる可能性が高まります。
  • 精神的な負担の軽減:保険会社との交渉や、法的手続きを弁護士に任せることができるため、精神的な負担が軽くなります。

活用方法

  1. 保険会社に連絡:まずは、自分が加入している保険会社に連絡し、弁護士費用特約を利用したい旨を伝えます。
  2. 弁護士を探す:交通事故に強い弁護士を探します。保険会社から弁護士を紹介してもらうこともできますが、自分で探すことも可能です。
  3. 弁護士に相談:弁護士に事故の状況や損害の内容を説明し、相談します。
  4. 委任契約:弁護士に依頼することを決めたら、委任契約を結びます。
  5. 保険会社への通知:弁護士が、保険会社に弁護士費用特約を利用する旨を通知します。

注意点

  • 保険会社への事前連絡:弁護士に依頼する前に、必ず保険会社に連絡し、弁護士費用特約を利用する旨を伝え、承認を得る必要があります。
  • 補償範囲:弁護士費用特約には、補償範囲(相談料、着手金、報酬金、実費など)や、上限額が定められています。事前に確認しておきましょう。
  • 弁護士の選び方:交通事故案件の経験が豊富で、信頼できる弁護士を選びましょう。

3-8. まとめ:物損事故で「修理しない」選択のポイント

  • 物損事故で車を「修理しない」ことは法的に問題ない
  • 修理しない場合でも、賠償金(保険金)は受け取れる
  • 修理しないメリット:現金を自由に使える、修理期間を気にしなくて良い
  • 修理しないデメリット:車の価値が下がる、損傷が悪化するリスク、安全上の問題
  • 保険会社との交渉では、根拠資料を提示し、粘り強く交渉する
  • 弁護士費用特約を活用し、弁護士に相談・依頼することを検討する
  • 相手が修理しない場合: 相手に修理の意思がないか確認し、保険会社と相談して対応
  • 納得できない場合: 複数の見積もりを取り、専門用語を理解し、場合によっては弁護士にも相談

このまとめを参考に、物損事故で「修理しない」という選択肢について、多角的に検討し、ご自身にとって最善の判断をしてください。

記事の監修者

 

弁護士 藤本真一(東京弁護士会)登録番号51083 弁護士法人木村雅一法律特許事務所所属
東京・埼玉・神奈川・千葉・山梨・茨城・北海道の交通事故に注力しています。これまでの交通事故での解決実績は、400件以上です(令和7年1月現在)。八王子駅5分・京王八王子駅1分 現場調査と鑑定分析、証拠収集に強みがあると考えています。依頼人との信頼関係を築くことに努めています。

東京・埼玉・神奈川・千葉・山梨・茨城・北海道の交通事故に注力しています。

私たちはご依頼者様の不安やお悩みを共にできるよう親身にお話を伺いご依頼者様の立場に立って考えることを大切にします。

特徴 事務所では常時、数百件の交通事故事件を受任中で解決の実績は多数です。
強み 事故の的確な調査、調査会社や鑑定会社との連携、医学的・工学的な鑑定分析、証拠収集、過失割合・損害額の検討、交渉・訴訟・調停・ADR等の的確な方針の選択等に強みがあると考えています。
連携 依頼者の加入する損害保険会社や、地域に根付く代理店様との連携強化を続けています。
事故の的確な調査 弁護士会照会を行い(防犯カメラ、刑事記録等)、実際に事故現場に足を運び車両や事故現場に残された痕跡を正確に分析し示談交渉や訴訟に役立てています。
調査会社や鑑定会社 調査会社や鑑定会社と連携し、図面の作成、現場写真の撮影に加えドライブレコーダーや防犯カメラを分析した報告書、車両の損傷状況から導き出される事故態様についての鑑定意見書を作成し事故態様の解明に役立てています。
過失割合の分析 当事務所で解決・集積された膨大な記録や、複数の裁判例のデータベースから過失割合を分析しています。
損害額の検討 車両の修理費、車両の時価、評価損(格落ち)、治療費、交通費、慰謝料、休業損害、死亡分・後遺障害分の損害についても、記録や裁判例をもとに損害をもれなく積み上げて計算し、適正な賠償を獲得することに努めています。

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