交通事故の物損で請求できるもの:修理費から慰謝料、迷惑料まで

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交通事故の物損事故で損をしないために!修理費、代車費用、評価損、休車損害、迷惑料、慰謝料…弁護士が請求できるもの

 まず、結論からいうと、通常、交通事故の物損で請求できるものは、主に、以下のとおりです。

  • 修理費
  • 時価額(消費税含む)+買替諸費用(自動車登録番号変更費用、車庫証明費用、検査登録法定費用、 車庫証明法定費用、 納車費用、 検査登録手続代行費用、車庫証明手続代行費用、リサイクル預託金、自動車取得税、自動車重量税)
  • 評価損(格落ち損)
  • 代車料・レンタカー代
  • 休車損害(営業損害)
  • レッカー代
  • 保管料
  • 廃車費用
  • 積荷損害
  • 着衣・所持品の損害
  • 弁護士費用
  • 遅延損害金

基本的にこれを押さえておけば大丈夫ですが、交通事故に遭い、大切な車や物が破損してしまった場合、「一体何が交通事故の物損において請求できるものなのだろう?」と疑問に思うのは当然です。

 修理費用はもちろんのこと、代車費用、そして場合によっては上記の費目も請求できる可能性があります。特に、相手に全面的に過失がある10対0物損事故の場合も含めて、損をしないためにはしっかりと請求できるものを把握しておくことが重要です。

 しかし、保険会社との交渉はスムーズに進むとは限りません。中には、保険会社や、物損事故の相手がごねるケースも存在します。そんな時、どうすれば良いのでしょうか?

 本記事では、物損事故については保険会社に任せるべきか、自分で交渉すべきか、そして物損事故の示談は流れはどうなっているのか、さらに物損事故でお詫びはいらないのか、加えて、交通事故の物損で請求できるもののうち、主なものを弁護士が徹底的に解説します。

また、過去に「物損事故で慰謝料をもらえた」という事例もあるのか?10対0の物損事故で修理費は全額請求できるのか?10対0の物損事故での示談金の相場はどうなっているのか?これらの疑問に一つ一つお答えし、あなたが正当な賠償金を受け取るための知識と行動指針を提供します。

本記事の主要なポイント

  • 交通事故の物損事故で請求できる基本的な損害賠償項目と、その根拠となる法律、具体的な算定方法
  • 10対0の過失割合における詳細な解説と示談金相場の実情
  • 物損事故でも慰謝料が認められる例外的なケースの具体的な事例と法的解釈
  • 保険会社との示談交渉の具体的な進め方、注意点、そして弁護士に依頼するメリットを事例を交えて解説
  • 相手が示談に応じない、または不当な主張をしてくる場合の具体的な対処法と、弁護士費用特約の活用方法
  • スムーズな示談交渉のための段階的な流れと、各段階における重要な注意点、必要な書類
  • 加害者からのお詫びはいらないのか、心理的な側面と、法的な対応の違い

目次

1. 交通事故の物損で請求できるものの基礎:損害賠償請求の基本と交渉の心構え

交通事故に遭い、物的損害を被った場合、まず理解すべきは「交通事故の物損で請求できるもの」の範囲と、それを実現するための基本的な法的枠組みです。

ここでは、物損事故における損害賠償請求の根幹となる知識と、その後の交渉を有利に進めるための心構えについて、より深く掘り下げて解説します。

  • 1.1. 物損事故とは?人身事故との明確な違いと損害賠償の考え方:請求できる範囲の違い
  • 1.2. 交通事故の物損で請求できるものの法的根拠:民法709条の具体的な解釈と適用
  • 1.3. 過失割合が損害賠償額に与える影響:「10対0」が意味する絶対的責任
  • 1.4. 交通事故 物損 示談交渉の重要性と心構え:有利な解決のための戦略
  • 1.5. 保険会社との適切な関わり方:任せることのメリット・デメリットを徹底比較
  • 1.6. 弁護士に相談する最適なタイミングとは?弁護士費用特約の詳細と活用術
  • 1.7. 泣き寝入りしないために:知っておくべき権利、情報収集、そして積極的な行動
  • 1.8. 交通事故の物損で請求できるものを理解するための全体像:請求プロセスと注意点

1.1. 物損事故とは?人身事故との明確な違いと損害賠償の考え方:請求できる範囲の違い

交通事故は、その結果として人的な被害が発生したかどうかによって、「人身事故」と「物損事故」に明確に区別されます。

物損事故とは、車両、建物、道路標識、ガードレール、電柱、積載物など、人以外の物に損害が生じた事故を指します。一方、人身事故は、人の死亡や負傷を伴う事故です。

この区別は、被害者が請求できる損害賠償の範囲に大きな違いをもたらします。

人身事故の場合、被害者は治療費、入院費、通院交通費、看護費用といった直接的な医療費に加え、後遺症が残った場合には後遺障害慰謝料や逸失利益(将来得られたはずの収入の損失)、そして精神的な苦痛に対する慰謝料などを請求することができます。

これに対し、物損事故で主に請求できるのは、物的損害を回復するために必要な費用です。具体的には、損傷した物の修理費用、修理が不可能または経済的に合理的でない場合の買替諸費用、修理期間中に代車が必要になった場合の費用(代車費用など)が中心となります。

しかし、物損事故だからといって、精神的な損害が全く考慮されないわけではありません。後述するように、例外的なケースでは精神的な苦痛に対する賠償が認められることもあります。

重要なのは、人身事故と物損事故では、損害の種類と範囲、そしてそれを立証する資料が大きく異なるという点を理解しておくことです。物損事故においては、損害額を具体的に算定し、その根拠を示すことが特に重要になります。

1.2. 交通事故の物損で請求できるものの法的根拠:民法709条の具体的な解釈と適用

交通事故の物損で請求できるものの法的根拠となるのは、日本の民法第709条です。この条文は「故意又は過失によって、他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と明確に定めています。交通事故における物損事故は、まさにこの条文が適用される典型的なケースと言えます。

具体的に考えると、自動車を運転する者は、道路交通法などの法令を遵守し、安全に運転する義務を負っています。もし、運転者の不注意(前方不注意、安全不確認、速度超過など)によって交通事故が発生し、他人の所有物である車両やその他の物に損害を与えてしまった場合、その損害は運転者の過失によって生じたものと見なされます。

したがって、被害者はこの民法709条に基づいて、加害者に対して損害賠償を請求する権利を取得するのです。

この損害賠償請求権を行使するためには、いくつかの要件を満たす必要があります。まず、加害者に故意または過失があったこと、次に、被害者に損害が発生したこと、そして、その損害と加害者の行為との間に因果関係があることが求められます。

交通事故の物損事故においては、加害者の運転に過失があり、その過失によって被害者の物に損害が発生したという因果関係が認められれば、被害者は損害賠償を請求できることになります。

1.3. 過失割合が損害賠償額に与える影響:「10対0」が意味する絶対的責任

交通事故における損害賠償額を決定する上で、非常に重要な要素となるのが過失割合です。過失割合とは、交通事故の発生について、当事者それぞれにどの程度の責任(過失)があったのかを数値で示したものです。

過去の類似の事故に関する判例などを参考に、保険会社が当事者間の過失割合を決定します。弁護士に照会をかけてもらい、警察の作成する物件事故報告書という図面を取得し、過失割合の参考にすることもあります。

原則として、交通事故の被害者にも過失があると認定された場合、その過失割合に応じて損害賠償額が減額されます。これを「過失相殺」と言います。

例えば、損害額が100万円と算定され、被害者の過失割合が2割(20%)と認定された場合、被害者が加害者に請求できるのは、100万円から自身の過失割合分の20万円を差し引いた80万円となります。

また、その上、相手の損害が50万円と算定されていた場合、50万円の20%の10万円をこちらが負担することになります(相殺すれば、被害者が請求できるのは、80万円-10万円で70万円となります。こちら側で対物保険を使った方が得であれば、相手の支払10万円は対物保険で支払えば、結局手元には80万円が残ることになります)。

しかし、「10対0」の事故、つまり一方の当事者に100%の過失があり、もう一方の当事者には全く過失がないと認められるケースでは、この過失相殺は適用されません。被害者は、被った損害の全額を加害者に対して請求することができます。

追突事故や、明らかに一方の信号無視による衝突などがこの典型的な例です。10対0の物損事故 の場合、修理にかかった費用全額が賠償の対象となりますし(10対0の場合、修理費は、相手保険から修理工場に直接お支払することが可能です)、その他の損害項目についても同様に、過失割合による減額を心配する必要がないため、請求できる損害をしっかりと把握し、漏れなく請求することが大切です。

なお、通常、相手保険は、こちらに少しでも過失がある場合、代車を出してくれることはありません。こちらで代車を借りて、後から請求していくことになります。

1.4. 交通事故 物損 示談交渉の重要性と心構え:有利な解決のための戦略

交通事故による物損の損害賠償は、通常、加害者側の保険会社との示談交渉によって解決されます。示談とは、裁判手続きによらずに、当事者間で話し合いを行い、互いに譲歩しながら紛争の解決を目指す手続きです。保険会社は、過去の事故データや社内の基準に基づいて損害額を算出し、示談金を提示してきます。

しかし、保険会社が提示する示談金が、必ずしも被害者の被った損害を適正に評価したものであるとは限りません。特に、車両の評価損や、経済的全損の場合の買替諸費用については、保険会社が積極的に提示してこない場合が多くあります。

そのため、被害者自身が交通事故の物損で請求できるものの範囲をしっかりと理解し、適切な根拠に基づいて交渉を行うことが、有利な解決に繋がる重要なポイントとなります。

示談交渉に臨むにあたっては、感情的にならず、冷静かつ論理的に主張を行うことが重要です。自身の損害額を裏付ける証拠(修理見積もり、代車の請求書、買替諸費用の見積書など)をしっかりと準備し、保険会社の提示額が不当であると感じた場合には、その理由を具体的に説明し、増額を求めるべきです。

もし交渉が難航するようであれば、弁護士に相談し、専門的なアドバイスや交渉の代行を依頼することも有効な手段となります。

1.5. 保険会社との適切な関わり方:任せることのメリット・デメリットを徹底比較

交通事故の被害に遭った際、ご自身の加入している保険会社に事故の報告をすることは、その後の手続きを進める上で最初のステップとなります。

保険会社は、事故状況の確認や、相手方との連絡、そして示談交渉のサポートなどを行ってくれます。しかし、物損事故を保険会社に任せることには、メリットとデメリットが存在します。

メリット:

  • 手間と時間の節約: 保険会社が相手方との連絡や交渉を代行してくれるため、被害者自身が直接対応する手間や時間を大幅に削減できます。
  • 専門知識の活用: 保険会社の担当者は、交通事故に関する一定の知識や経験を持っているため(むしろ、弁護士よりも詳しいです)、スムーズに手続きが進むことが期待できます。
  • 示談交渉の代行: 面倒な交渉を保険会社に任せることができるため、精神的な負担を軽減できます。

デメリット:

  • 請求できる損害の見落とし: 評価損や買替諸費用など、保険会社が積極的に提示してこない損害項目については、被害者自身が主張しない限り、賠償の対象とならない可能性があります。保険会社の物損担当同士では、あまり買替諸費用の話にはなりません。
  • 交渉の透明性の低さ: 保険会社がどのように交渉を進めているのか、詳細な状況が被害者に伝わりにくい場合があります。また、物損の交渉の場合、電話と書面のやり取りのみで、顔を見ることはありません。
  • 不本意な示談: 被害者の意向が十分に反映されないまま、保険会社が一方的に示談を進めてしまうリスクもゼロではありません。

したがって、保険会社に示談交渉を任せる場合でも、交渉の進捗状況を定期的に確認し、提示された示談金額が適正かどうかを自身で判断することが重要です。ただし、基本的に、契約者は保険会社のお客さんですから、契約者に少しでも不満が残らないよう、頑張っています。

もし、提示された金額に納得がいかない場合や、保険会社の対応に不安を感じる場合には、弁護士にも相談することをお勧めします。

1.6. 弁護士に相談する最適なタイミングとは?弁護士費用特約の詳細と活用術

交通事故の物損で請求できるものについて少しでも疑問や不安を感じたら、できるだけ早い段階で弁護士に相談することをお勧めします。

弁護士は、法律の専門家として、あなたの状況を正確に把握し、適切なアドバイスを提供してくれます。特に、以下のようなタイミングで弁護士に相談することのメリットは大きいです。

  • 事故直後:事故状況の記録や証拠の保全、相手方との初期対応についてアドバイスを受けることができます。
  • 保険会社から連絡があった時点: 保険会社の担当者の説明や提示された書類について、法的な観点から解説を受けることができます。
  • 示談交渉が開始された時点: 提示された過失割合・損害額・示談金額が適正かどうかを判断してもらい、増額交渉の方針について相談することができます。
  • 交渉が難航している場合: 相手方が過失を認めない、損害額について争いがあるなど、交渉がスムーズに進まない場合には、弁護士に交渉を代行してもらうことができます。また、交渉での解決が見込めない場合、訴訟での解決を図ることができます。
  • 弁護士費用特約の利用を検討している場合: 特約の適用範囲や利用の手続きについて、弁護士に確認することができます。

多くの自動車保険には、「弁護士費用特約」が付帯しています。この特約を利用すると、交通事故の被害者が弁護士に相談・依頼する際の費用(相談料、着手金、報酬金、訴訟費用など)が、保険会社によって一定の限度額(通常300万円程度)まで補償されます。

この特約を利用しても、原則として翌年度の保険料が上がることはありません。弁護士費用特約を有効活用することで、自己負担をほぼゼロに抑えながら、弁護士の専門的なサポートを受けることが可能になります。ご自身の保険証券を確認し、特約が付帯している場合は、積極的に利用を検討しましょう。

1.7. 泣き寝入りしないために:知っておくべき権利、情報収集、そして積極的な行動

交通事故の物損事故では、「物損だけだから…」「保険会社に任せておけば大丈夫だろう」と考えてしまい、本来、交通事故の物損で請求できるものを十分に請求せずに泣き寝入りしてしまうケースが少なくありません。

しかし、被害者は、被った損害に対して正当な賠償を受ける権利を有しています。この権利をしっかりと行使するためには、以下の点が重要です。

  • 自身の権利を理解する: 物損事故でどのような損害が賠償の対象となるのか、過失割合がどのように影響するのかなど、基本的な知識を身につけることが大切です。信頼できる情報源から積極的に情報を収集しましょう。
  • 証拠をしっかりと保全する: 事故現場の写真、ドライブレコーダーの映像、修理の見積もり、関連費用の領収書など、損害額を立証するための証拠をしっかりと保管しておくことが重要です。
  • 積極的に情報収集を行う: 類似の事故に関する判例や、示談金の相場などを調べ、自身のケースと比較検討してみましょう。
  • 疑問や不安を感じたら専門家に相談する: 少しでも不安な点や分からないことがあれば、弁護士や交通事故の専門家などに相談し、アドバイスを受けることを躊躇しないでください。
  • 安易な妥協はしない: 保険会社から提示された示談金額が、必ずしも適正であるとは限りません。納得いくまで交渉することが大切です。

1.8. 交通事故の物損で請求できるものを理解するための全体像:請求プロセスと注意点

このセクションでは、交通事故の物損で請求できるものの全体像を把握するための基礎として、事故の種類、法的根拠、過失割合、示談交渉の重要性、保険会社との関わり方、弁護士の役割、そして泣き寝入りしないための心構えについて解説しました。

これらの基礎知識を踏まえ、次のセクションでは、具体的にどのような損害項目が交通事故の物損で請求できるものとして認められるのか、それぞれの項目についてさらに詳しく掘り下げて見ていきましょう。

2. 徹底解説!交通事故の物損で請求できるもの:修理費、代車費用から慰謝料、迷惑料まで

前のセクションでは、物損事故における損害賠償請求の基礎知識と交渉の心構えについて詳しく解説しました。このセクションでは、いよいよ具体的に、交通事故の物損で請求できるものとしてどのような項目があるのか、修理費、代車費用といった基本的なものから、評価損、そして場合によっては慰謝料や迷惑料まで、それぞれの詳細と請求する際のポイントについて徹底的に解説していきます。

  • 2.1. 交通事故の物損で請求できるもの:修理費用の全額請求を実現するために必要なこと
  • 2.2. 交通事故の物損で請求できるもの:修理期間中の代車費用の合理的な範囲と請求のポイント
  • 2.3.交通事故の物損で請求できるもの:事業用車両の休車損害の算定方法と請求の注意点
  • 2.4. 交通事故の物損で請求できるもの:車両価値の下落(評価損)の認められる条件と請求の根拠
  • 2.5. 交通事故の物損で請求できるもの:その他の関連費用(レッカー代、保管料など)の具体的な例と証拠の重要性
  • 2.6. 10対0 物損事故で請求できる迷惑料とは?その法的根拠と交渉における主張の仕方
  • 2.7. 物損事故でも慰謝料がもらえる例外的なケース:具体的な事例と法的判断のポイント
  • 2.8. 物損事故でお詫びはいらないのか?心理的側面と、損害賠償請求への影響
  • 2.9.まとめ:交通事故の物損で請求できるものを理解し、正当な賠償を

2.1. 交通事故の物損で請求できるもの:修理費用の全額請求を実現するために必要なこと

10対0の物損事故の修理費の場合、損害を受けた車両の修理にかかる費用は、原則として全額加害者に請求することができます。しかし、スムーズに修理費用の全額賠償を受けるためには、いくつかの重要な点に注意する必要があります。

保険会社から指定された修理工場を勧められることもありますが、最終的に修理を依頼する工場を選ぶ権利は被害者にあります。ディーラーでの修理も基本的に認められますが、修理費用が明らかに高額である場合には、保険会社から異議が出ることがあります。そのため、事前に保険会社と修理方針や見積もりについて十分に協議しておくことが大切です。

また、修理が経済的に合理的でない場合、例えば修理費用が車両の時価額を上回るようなケースでは、「全損」として扱われることがあります。この場合、賠償されるのは車両の時価額を上限とした金額となります。時価額は、事故当時の車両の状態や年式、走行距離などを考慮して算出されます。

なお、減価償却の上、時価は新車価格の1割である、時価額には消費税は含めない、などとも主張が保険会社からなされることがありますが、市場価格を調査しましょう。また、消費税は請求可能です。

修理を行う際には、修理箇所の写真や修理明細書、走行距離などの記録をしっかりと保管しておきましょう。これらの書類は、損害額(後で、評価損が請求可能であることも判明することがあります)を証明する重要な証拠となります。もし、修理後に新たな損傷が見つかった場合などは、速やかに保険会社に連絡し、追加の修理についても協議する必要があります。

2.2. 交通事故の物損で請求できるもの:修理期間中の代車費用の合理的な範囲と請求のポイント

交通事故により車両が使用できなくなった場合、修理期間中に必要な代車費用も交通事故の物損で請求できるものの一つです。しかし、代車費用が全額認められるためには、合理的な範囲という考え方を理解しておく必要があります。

代車として認められる期間は、通常、車両の修理が完了するまでの合理的な期間(修理相当期間)に限られます。修理期間が不当に長引いた場合、その一部は自己負担となる可能性もあります。また、代車として借りる車種は、事故車両と同等程度のクラスが一般的です。例えば、軽自動車が損害を受けた場合に高級セダンを借りたとしても、その全額が認められるとは限りません。特別な理由がない限り、同等クラスまたはそれ以下の車種を選ぶべきでしょう。

代車を利用する際には、事前に保険会社に代車利用の必要性と車種、期間について確認を取り、合意を得ておくことがスムーズな請求につながります。レンタカー会社との契約書や領収書は、必ず保管しておきましょう。もし、自家用車が複数台あり、そのうちの1台を使用できたような場合には、代車費用の必要性が認められないこともあります。

当方過失案件の場合は、相手保険から代車は通常出ません。自分の保険に代車特約があれば、それを使うことになります。

2.3. 交通事故の物損で請求できるもの:事業用車両の休車損害の算定方法と請求の注意点

タクシー、トラック、バスなど、事業のために使用している車両が交通事故により損害を受け、その期間中に営業ができなかった場合、その損失は「休車損害」として交通事故の物損で請求できるものに含まれます。休車損害は、単に車両が使用できなかったことによる損害だけでなく、その期間中に得られたはずの利益の損失を補填するものです。

休車損害の算定方法は、一般的に「1日あたりの平均利益 × 休車日数」で計算されます。1日あたりの平均利益は、事故発生前一定期間の売上高から、その期間にかかった経費を差し引いて算出します。休車日数は、車両の修理に必要な期間や、修理が不可能な場合は代替車両を調達するまでの合理的な期間が考慮されます。

なお、遊休車がある場合は、休車損害は認められません。

休車損害を請求する際には、売上高や経費を証明する書類(帳簿、確定申告書、請求書など)や、休車期間を証明する書類(修理の見積もり、修理完了報告書など)を提出する必要があります。また、代替車両を早期に手配するなど、損害を最小限に抑える努力をしたことも示すことが重要です。休車損害の算定は複雑になるケースが多いため、事業用車両の事故に遭われた場合は、早めに弁護士や会計士などの専門家に相談し、適切な休車損害額を算定し、請求を行うことをお勧めします。

2.4. 交通事故の物損で請求できるもの:車両価値の下落(評価損)の認められる条件と請求の根拠

修理によって交通事故の損害が物理的に回復したとしても、その車両に事故歴が残ることで、中古車としての市場価値が下落することがあります。この価値の減少分が「評価損」(格落ち損)であり、交通事故の物損で請求できるものとして認められる可能性があります。しかし、評価損はすべての物損事故で当然に認められるわけではなく、いくつかの条件を満たす必要があります。

一般的に評価損が認められやすいのは、以下のケースです。

  • 車両の年式が比較的新しい: 初年度登録から3年以内(国産車)、走行距離が短い車両などが該当します。
  • 修理歴が車両の骨格部分に及ぶ: フレーム(車台)、クロスメンバー、インサイドパネル、ピラー(柱)などの重要構造部分の修理や交換が行われた場合です。これらの修理は、車両の安全性や耐久性に影響を与える可能性があり、評価損が認められやすくなります。

評価損の金額を算定する明確な基準はなく、事故車両の年式、走行距離、損傷の程度、修理内容、中古車市場の動向など、様々な要素を総合的に考慮して判断されます。自動車査定士による査定書などが、評価損の根拠として用いられることがあります。評価損が認められる場合、修理費の10%~30%となることが多いです。

なお、立証資料としては、一般財団法人日本自動車査定協会の発行する、事故減価額証明書というものを使うこともあります。

評価損の請求は、保険会社が積極的に認めてくるケースは少ないため、弁護士に相談し、過去の判例や類似の事例を参考に、適切な評価損の金額を主張していくことが重要です。

2.5. 交通事故の物損で請求できるもの:その他の関連費用(レッカー代、保管料など)の具体的な例と証拠の重要性

車両の修理費や代車費用、そして評価損以外にも、交通事故と相当因果関係がある損害は、交通事故の物損で請求できるものとして加害者に請求することができます。これらの費用は多岐にわたりますが、主な例としては以下のようなものがあります。

  • 時価額(消費税含む)に加え、買替諸費用(自動車登録番号変更費用、車庫証明費用、検査登録法定費用、 車庫証明法定費用、 納車費用、 検査登録手続代行費用、車庫証明手続代行費用、リサイクル預託金、自動車取得税、自動車重量税)
  • レッカー代: 事故により自力走行不能となった車両を、修理工場や保管場所まで移動させるためにかかった費用です。
  • 保管料: 修理工場への入庫がすぐにできない場合など、一時的に車両を保管する必要が生じた際の費用です。
  • 事故車両からの積載物の搬出・保管費用: 事故車両に積んでいた荷物などを運び出し、保管するためにかかった費用です。
  • 廃車費用:事故により廃車することになった場合の費用です。
  • 積荷損害:車に積載していた積荷が損傷を受けた場合の時価又は修理費です。
  • 着衣・所持品の損害:着衣・所持品についても、通常、時価(減価償却又は市場価格)が損害になります。
  • 弁護士費用:訴訟(判決)では、認容額の1割が弁護士費用として加算されます。和解では調整金として加算されることがあります。交渉では相手保険は認めません。
  • 遅延損害金:訴訟(判決)では、事故日から3%の遅延損害金を請求可能です。和解では調整金として加算されることがあります。交渉では相手保険は認めません。

これらの費用を請求する際には、見積書、領収書、請求書、明細書、時価額の資料などの証拠書類が非常に重要になります。どのような費用にいくらかかったのかを具体的に証明することで、保険会社も支払いに応じやすくなります。些細な費用でも、事故に関連して発生したものであれば、きちんと記録し、証拠書類を保管しておくようにしましょう。

2.6. 10対0 物損事故で請求できる迷惑料とは?その法的根拠と交渉における主張の仕方

10対0の物損事故での迷惑料は、法律で明確に定められた損害項目ではありません。しかし、相手に100%の過失がある物損事故の場合、被害者は、事故の発生によって様々な精神的な負担や、事故処理のために時間や労力を費やすことを余儀なくされます。

このような被害者が被った不利益に対して、損害賠償金に一定の金額が上乗せされることがあります。これが一般的に「迷惑料」と呼ばれることがあります。

迷惑料の法的根拠としては、民法709条の不法行為に基づく損害賠償請求権において、「財産以外の損害」として間接的に解釈されることがあります。

直接的な物的損害(修理費など)だけでなく、事故によって被害者が被った精神的な苦痛や、煩雑な手続きによる負担も損害として評価されるべきであるという考え方に基づいています。

迷惑料の具体的な金額を算定する明確な基準はなく、個々の事故の状況や、被害者が被った精神的・時間的負担の程度によって異なります。一般的には、迷惑料は、慰謝料の範疇に入るものと考えられますが、物損においては原則として慰謝料は認められないわけですから、迷惑料を請求することは困難というべきです。

保険会社は、「迷惑料」という名目での支払いに積極的ではありません。交渉においては、例えば以下の点を具体的に説明し、迷惑料としてはともかく、その他の費目での賠償金の上乗せの支払いを求めていくことが現実的です。

  • 事故の態様(一方的な追突事故であるなど、被害者に全く過失がないこと)
  • 事故によって被った精神的なショックや不安
  • 修理や保険会社との連絡、手続きなどに費やした時間や労力
  • 日常生活への支障(代車の手配、公共交通機関の利用などによる不便さ)

2.7. 物損事故でも慰謝料がもらえる例外的なケース:具体的な事例と法的判断のポイント

原則として、交通事故における慰謝料は、人の生命や身体が侵害された場合に認められるものであり、物損事故のみの場合には、精神的な苦痛に対する慰謝料請求は認められないのが一般的です。

しかし、「物損事故で慰謝料がもらえた」というケースが全くないわけではありません。極めて例外的な場合に限り、物損事故であっても慰謝料が認められることがあります。

例えば、以下のようなケースが考えられます。

  • ペットが死亡または重傷を負った場合: ペットは法律上「物」として扱われますが、家族の一員として精神的な結びつきが強い場合、その死亡や重傷によって飼い主が著しい精神的苦痛を受けたとして、慰謝料が認められることがあります。ただし、認められるケースは限定的で、その金額も人身事故の慰謝料と比較すると非常に低額になることが多いです。
  • 住居などが損壊した場合: 交通事故によって、居住している家屋や生活の基盤となる家財などが損壊し、日常生活に著しい支障が生じた場合に、精神的苦痛に対する慰謝料が認められる可能性があります。この場合も、損壊の程度や被害者の精神的苦痛の度合いを具体的に立証する必要があります。
  • 加害者の行為が悪質な場合: 飲酒運転やひき逃げなど、加害者の故意または重大な過失によって物損事故が発生し、被害者が強い恐怖や精神的苦痛を感じた場合に、慰謝料が認められることがあります。

これらのケースは非常に例外的であり、慰謝料請求が認められるかどうかは、個別の事案の具体的な状況や証拠に基づいて裁判所が判断します。物損事故で慰謝料の請求を検討する場合は、弁護士に相談し、法的観点から可能性や立証の方法について慎重に検討してもらうことが不可欠です。

2.8. 物損事故でお詫びはいらないのか?心理的側面と、損害賠償請求への影響

交通事故の物損事故の被害者から、お詫びをしろ、などと言われることがあります。

被害者としては、相手がお詫びをしないことに様々な感情を抱くかもしれませんが、法的な観点から考えると、相手の謝罪の有無は、損害賠償請求の権利そのものに直接的な影響を与えるものではありません。

謝罪は、被害者の精神的な苦痛を和らげる効果があるかもしれませんが、それは感情的な側面の話です。法律的には、加害者の過失によって被害者に損害が発生した場合、加害者はその損害を賠償する義務を負います。

したがって、法的な側面と道義的な側面は区別すべきであって、加害者は、お詫びをしなければならないわけではありませんし、被害者は、被った物的損害(修理費用、代車費用など)やその他の損害について、正当な賠償を請求する権利を失うわけではありません。

むしろ、お詫びや謝罪が争点になると、かえって紛争解決を遅らせます。被害者としては、相手の言葉に惑わされることなく、冷静に自身の損害額を算定し、適切な賠償を求めることが重要です。

もし、相手の態度に不誠実さを感じたり、交渉がスムーズに進まない場合は、弁護士に相談し、今後の対応についてアドバイスを受けることをお勧めします。弁護士は、法的な知識に基づき、被害者の権利をしっかりと守ってくれます。

2-9. まとめ:交通事故の物損で請求できるものを理解し、正当な賠償を

  • 交通事故の物損事故では、修理費用、全損時価、代車費用、評価損、休車損害、レッカー代、保管料、買替諸費用など、様々なものが「交通事故の物損で請求できるもの」として認められます。これらの損害項目について、具体的な内容、請求の根拠、必要な証拠などをしっかりと理解しておくことが、正当な賠償を受けるための第一歩です。
  • 10対0 物損事故の場合、過失がない被害者はこれらの損害全額を請求できます。また、事故によって精神的な負担を強いられた場合には、迷惑料の請求もしたいと考えるかもしれませんが、物損事故での迷惑料の請求は困難です。
  • 物損事故で慰謝料がもらえたという事例は極めて例外的であり、ペットの死傷や住居の損壊など、被害者が著しい精神的苦痛を受けた場合に限られます。請求を検討する際には、弁護士に相談し、慎重な判断が必要です。
  • 保険会社との交渉は、物損事故では保険会社に任せることも一つの選択肢ですが、提示される示談金が必ずしも適正とは限りません。自身でも積極的に情報を収集し、疑問点があれば確認することが大切です。物損事故で相手がごねるような状況に陥った場合は、早期に弁護士に相談することをお勧めします。
  • 「物損事故の示談の流れ」を事前に把握しておくことで、交渉をスムーズに進めることができます。各段階で必要な書類や注意点を確認し、適切な対応を心がけましょう。物損事故でお詫びの話になった場合でも、感情的にならず、損害賠償請求の手続きを進めることが重要です。
  • 弁護士費用特約が付いている場合は、積極的に活用しましょう。弁護士に相談・依頼することで、複雑な損害賠償請求の手続きや、保険会社との交渉を有利に進めることができます。

交通事故の物損事故に遭ってしまった際は、本記事で解説した交通事故の物損で請求できるものに関する知識を参考に、決して泣き寝入りすることなく、正当な賠償を請求してください。もし、ご自身のケースで判断に迷うことがあれば、躊躇せずに弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

記事の監修者

 

弁護士 藤本真一(東京弁護士会)登録番号51083 弁護士法人木村雅一法律特許事務所所属
東京・埼玉・神奈川・千葉・山梨・茨城・北海道の交通事故に注力しています。これまでの交通事故での解決実績は、400件以上です(令和7年1月現在)。八王子駅5分・京王八王子駅1分 現場調査と鑑定分析、証拠収集に強みがあると考えています。依頼人との信頼関係を築くことに努めています。

東京・埼玉・神奈川・千葉・山梨・茨城・北海道の交通事故に注力しています。

私たちはご依頼者様の不安やお悩みを共にできるよう親身にお話を伺いご依頼者様の立場に立って考えることを大切にします。

特徴 事務所では常時、数百件の交通事故事件を受任中で解決の実績は多数です。
強み 事故の的確な調査、調査会社や鑑定会社との連携、医学的・工学的な鑑定分析、証拠収集、過失割合・損害額の検討、交渉・訴訟・調停・ADR等の的確な方針の選択等に強みがあると考えています。
連携 依頼者の加入する損害保険会社や、地域に根付く代理店様との連携強化を続けています。
事故の的確な調査 弁護士会照会を行い(防犯カメラ、刑事記録等)、実際に事故現場に足を運び車両や事故現場に残された痕跡を正確に分析し示談交渉や訴訟に役立てています。
調査会社や鑑定会社 調査会社や鑑定会社と連携し、図面の作成、現場写真の撮影に加えドライブレコーダーや防犯カメラを分析した報告書、車両の損傷状況から導き出される事故態様についての鑑定意見書を作成し事故態様の解明に役立てています。
過失割合の分析 当事務所で解決・集積された膨大な記録や、複数の裁判例のデータベースから過失割合を分析しています。
損害額の検討 車両の修理費、車両の時価、評価損(格落ち)、治療費、交通費、慰謝料、休業損害、死亡分・後遺障害分の損害についても、記録や裁判例をもとに損害をもれなく積み上げて計算し、適正な賠償を獲得することに努めています。

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