物損事故において慰謝料請求ができるか?請求可能な損害賠償の範囲、そして人身事故への切り替えが必要かについて詳しく解説

  • LINEで送る

交通事故は、加害者、被害者双方にとって非常に辛い出来事です。特に物損事故の場合、慰謝料の請求について、多くの方が疑問や不安を抱くことでしょう。この文章では、物損事故における慰謝料請求の原則と例外、そして人身事故への切り替えについて、分かりやすく解説していきます。

目次

  1. 物損事故における慰謝料請求の基本的な考え方
  2. 物損事故で請求できる損害賠償の範
  3. 例外的に慰謝料が認められるケースとは
  4. 物損事故から人身事故への切り替えが必要か
  5. まとめ:物損事故における慰謝料請求と適切な対応

物損事故における慰謝料請求の基本的な考え方

物損損害に関する慰謝料は、原則として認められません。一般的には、財産上の損害が賠償されれば、同時に精神的苦痛も慰謝することになると考えられているからです。

物損事故で請求できる損害賠償の範囲

物損事故で請求できる損害賠償の範囲は、主に以下の通りです。

損害賠償の種類内容
車両修理費用事故によって破損した車両を修理するために必要な費用
代車料修理期間中に代車を利用した場合に発生する費用
休車損害車両が事故によって使用できなくなった場合に生じる営業上の損失(ただし、遊休車の不存在が必要)。また、代車を使用した場合は、基本的に代車料とは別に請求できません。
評価損修理によって車の価値が下がった場合に請求できる損害賠償。格落ちと言われることもあります。
買替諸費用車が全損した場合などに、同等の車両を買い替えるために必要な費用との差額
全損時価額経済的全損・物理的全損になった場合の車両の時価額
レッカー費用事故車両が自走不能の場合、車両を移動させるために必要な費用

これらの損害賠償は、事故によって実際に発生した経済的な損失を補填するために請求できます。

例外的に慰謝料が認められるケースとは

物損事故であっても、極めて稀なケースでは慰謝料が認められることがあります。以下のような場合が該当します(最高裁の判例も、「被侵害利益に対し、財産的価値以外に考慮に値する主観的精神的価値を認めていたような特別の事情」が認められる場合には、慰謝料を肯定する余地があることを認めています。)。

  • 被害に遭ったのが可愛がっていたペット(犬など)の場合
  • 居住する自宅、庭を損壊された場合
  • 先祖代々引き継がれてきた墓石が損壊した場合
  • 代替性のない芸術作品などが損壊した場合

これらのケースでは、被害者の感情や平穏な生活を著しく害する状況が発生したと判断され、慰謝料が認められる可能性があります。しかし、これはあくまで例外的なケースであり、裁判所の総合的な判断によって左右されます。

物損事故から人身事故への切り替えが必要か

交通事故で受傷した場合であっても、警察署に診断書を提出しない場合、通常、警察は物損事故として扱います。物損事故扱いか、人身事故扱いかを確認する方法は、交通事故証明書の右下の欄を見ることです。そこには「物件事故」又は、「人身事故」との記載があるはずです(もし、お手元に交通事故証明書がない場合は、自分の加入する保険会社か、相手方保険会社の担当者に、写しを送ってもらえるようお願いすれば、送ってもらえるでしょう。自分で交通事故証明書の発行申請をすると、費用がかかります。)。

ところで、物損事故扱いで治療してもいいのかとの質問をうけることがありますが、実際にけがをしている以上は、治療することに問題はありません。

実際にけがが生じている以上は、相手保険も、警察で物損扱いであるから、治療費の対応はしませんなどと主張してくることはありません(事故証上は物件事故扱いのまま、治療費の一括対応をすることになります。)。警察へ人身事故の届出をしているかどうかと、実際に受傷しているか別の話です。すなわち、治療のために、わざわざ人身事故への切り替えをする必要はありません(ただし、物損事故扱いの場合、物件事故報告書という簡易な図面しか作成されず、事故態様が争点となる場合、物件事故報告書ではあまり役に立たないということもあります)。

また、交通事故証明書上、人身事故として扱われていなくても、入通院慰謝料、休業損害などの人損の請求もできます。

一方、警察に診断書を提出して人身事故扱いとなった場合、刑事事件となり捜査が行われますから、相手方の刑事上の責任が問われることになります。人身事故扱いとしなかった場合は、刑事上はお咎めがないということになります。

人身事故への切り替えの手順は以下のとおりです。

  1. 診断書の準備: 事故後、救急搬送されたり、通院された病院では、「全治何週間」といった診断書が作成されているのが通常です(「全治」が書いてある診断書で、自賠責保険用の診断書ではありません)。なお、この警察用の診断書に記載されている期間は、あくまでも見込みであり、実際の治療期間はこれに限りません。
  2. 警察に人身事故として届け出ををし直す: 診断書を警察に提出し、人身事故として届け出をしてください。診断書の原本が必要となります。また、いきなり所轄の警察署に診断書を持っていっても、「担当者がいない」などといわれて、出直す羽目になります。事前に、電話で警察署にアポイントをとっておくとスムーズです。
  3. 実況見分の実施: 警察は刑事事件として事故の状況を改めて調査し、当事者の双方又は一方を呼び出して実況見分を行います。「現場の見分状況書」といった表題の図面が作成されます(後日、開示が可能となります)。

まとめ:物損事故における慰謝料請求と適切な対応

物的損害に関する慰謝料は、原則として認められませんが、特別の事情が認められる場合には、慰謝料を肯定する余地があります。

また、人身損害を請求するためには、必ずしも人身事故への切り替えは必要ではありません。

適切な対応と、必要に応じて専門家への相談を行うことが重要です。ご自身の状況に合わせて、弁護士などの専門家に相談し、適切なアドバイスを受けることをお勧めします。

記事の監修者

 

弁護士 藤本真一(東京弁護士会)登録番号51083 弁護士法人木村雅一法律特許事務所所属
東京・埼玉・神奈川・千葉・山梨・茨城・北海道の交通事故に注力しています。これまでの交通事故での解決実績は、400件以上です(令和7年1月現在)。八王子駅5分・京王八王子駅1分 現場調査と鑑定分析、証拠収集に強みがあると考えています。依頼人との信頼関係を築くことに努めています。

東京・埼玉・神奈川・千葉・山梨・茨城・北海道の交通事故に注力しています。

私たちはご依頼者様の不安やお悩みを共にできるよう親身にお話を伺いご依頼者様の立場に立って考えることを大切にします。

特徴 事務所では常時、数百件の交通事故事件を受任中で解決の実績は多数です。
強み 事故の的確な調査、調査会社や鑑定会社との連携、医学的・工学的な鑑定分析、証拠収集、過失割合・損害額の検討、交渉・訴訟・調停・ADR等の的確な方針の選択等に強みがあると考えています。
連携 依頼者の加入する損害保険会社や、地域に根付く代理店様との連携強化を続けています。
事故の的確な調査 弁護士会照会を行い(防犯カメラ、刑事記録等)、実際に事故現場に足を運び車両や事故現場に残された痕跡を正確に分析し示談交渉や訴訟に役立てています。
調査会社や鑑定会社 調査会社や鑑定会社と連携し、図面の作成、現場写真の撮影に加えドライブレコーダーや防犯カメラを分析した報告書、車両の損傷状況から導き出される事故態様についての鑑定意見書を作成し事故態様の解明に役立てています。
過失割合の分析 当事務所で解決・集積された膨大な記録や、複数の裁判例のデータベースから過失割合を分析しています。
損害額の検討 車両の修理費、車両の時価、評価損(格落ち)、治療費、交通費、慰謝料、休業損害、死亡分・後遺障害分の損害についても、記録や裁判例をもとに損害をもれなく積み上げて計算し、適正な賠償を獲得することに努めています。

相談の予約・お問合せ