【解決事例】個人事業主(自営業者)の休業損害日額・休業日数、治療費が争点となった事例。賠償額170万円の増額

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交通事故の被害に遭われた個人事業主(自営業者)の方、そしてそのご家族の皆様へ。事業への影響、収入の減少、保険会社との交渉…抱える悩みは計り知れないでしょう。特に、休業損害の算定は複雑で、保険会社からの提示額に納得がいかないケースも少なくありません。

今回の解決事例は、追突事故で頚椎捻挫と難聴を負われた内装業の個人事業主Aさん(仮名)のケースです。保険会社からの当初提示額は約90万円でしたが、弁護士に依頼したことで、最終的に賠償額は約260万円となり、170万円もの増額に成功しました。この大幅な増額は、どのようにして実現されたのでしょうか?

この記事では、Aさんが直面した問題、弁護士の具体的な対応、そして解決に至るまでの全プロセスを詳細に解説します。個人事業主(自営業者)の休業損害の計算方法、保険会社との交渉術、そして、弁護士に依頼するメリットについて、深く掘り下げていきます。同じような境遇でお悩みの方にとって、必ずや問題解決の糸口となるはずです。

目次

1. 事案の概要:追突事故、個人事業主(内装業)の被害

  • 事故の種類: 追突事故
  • 当事者:
    • 依頼者: 個人事業主(内装業)
  • 過失割合: 依頼者0:相手方100(追突事故のため、過失割合に争いなし)
  • 怪我の状況: 頸椎捻挫(むちうち)、難聴
  • 後遺障害: 非該当

事故現場は見通しの良い片側1車線の直線道路であり、赤信号で停車中の依頼者の車両に、相手方車両が後方から追突しました。

2. 相談に至る経緯:個人事業主ならではの悩みと不安

保険会社との交渉が、個人事業主であるAさんにとっては、大きな負担でした。

2-1. 被害者(依頼者)の事情

Aさんは、事故当時、個人で内装業を営んでいました。主な仕事は、住宅や店舗の内装工事で、現場での作業が中心です。 今回の事故により、頸椎捻挫(むちうち)と難聴の怪我を負い、仕事に支障が生じました。

  • 休業損害の日額が低い: 保険会社は、Aさんの事故前年の所得を単純に365日で割って休業損害の日額を計算していました。しかし、個人事業主の場合、この計算方法では、実際の収入を反映しているとは言えません。
  • 休業日数が短い: 保険会社は、警察に提出した診断書に記載された2週間しか休業を認めませんでした。しかし、Aさんの怪我の状況や仕事の内容からすると、2週間で仕事に復帰できるとは考えられませんでした。
  • 慰謝料が低い: 慰謝料は、任意保険の基準で計算されていました。
  • 治療費が認められない: Aさんは、事故後、難聴の症状が現れたため、耳鼻科に通院していました。しかし、保険会社は、事故と難聴の因果関係が不明であるとして、耳鼻科での治療費を認めませんでした。
  • 弁護士費用特約: Aさんは、弁護士費用特約に加入していたため、弁護士に依頼して、これらの問題を解決したいと考えていました。

3. 相手方からの提示額:90万円の内訳と問題点

相手方保険会社からの当初提示額は、以下の通りでした。

  • 治療費: 難聴で通院した分は否認。
  • 休業損害:
    • 日額: 事故前年の所得 ÷ 365日
    • 休業期間: 警察用診断書に記載された2週間のみ
  • 通院慰謝料: 任意保険の基準
  • 合計: 約90万円

3-1. 相手方提示額の問題点

  • 休業損害の日額が、個人事業主の実態を反映していない。
  • 休業期間が、実際の状況よりも短く見積もられている。
  • 慰謝料が、裁判基準(弁護士基準)よりも低い。
  • 事故と難聴の因果関係を否定され、治療費が認められない。

4. 弁護士の対応:徹底的な証拠収集と戦略的な交渉

弁護士は、Aさんの主張を裏付け、適切な賠償額を獲得するため、以下の対応を行いました。

4-1. 証拠収集:医師の意見書、複数年分の確定申告書など

まずは、客観的な証拠を収集することが重要です。以下の証拠を収集しました。

  • 医師の意見書:
    • Aさんが通院していた耳鼻科の医師に、事故と難聴の因果関係について意見書を作成してもらいました。
    • 意見書には、事故による衝撃で難聴が発症した可能性が高いこと、治療の必要性などが記載されていました。
  • 確定申告書:
    • Aさんの事故前年度だけでなく、過去数年分の確定申告書を取り寄せました。
    • 複数年分の確定申告書を比較することで、Aさんの収入の変動や、経費の内訳などを詳細に把握しました。
  • 減収の証明:
    • 事故後の確定申告書を取り寄せ、事故前と比較して収入が減少していることを証明しました。
  • その他の証拠:
    • 車両の損傷写真、修理見積書、刑事記録(実況見分調書など)を取り寄せ、事故の状況や、Aさんが受けた衝撃の大きさを把握しました。
    • 相手方に対し、ドライブレコーダーの映像の提出を求めました。(結局、提出されず)

4-2. 事故状況の分析:受傷の程度と因果関係の立証

収集した証拠を基に、事故の状況や、Aさんが受けた衝撃の大きさなどを詳細に分析しました。車両の損傷状況や、刑事記録の内容から、Aさんが受けた衝撃は相当なものであり、その衝撃によって難聴を発症した可能性が高いと判断しました。

4-3. 損害額の再計算:個人事業主の休業損害算定のポイント

以下の考え方に基づき、損害額を再計算しました。

  • 慰謝料:
    • 裁判基準(弁護士基準)で算定しました。
  • 休業損害:
    • 日額:
      • Aさんの過去数年分の確定申告書を基に、1日あたりの固定費(事業を継続するために必要な経費)を算出しました。
      • 固定費には、地代家賃、租税公課、損害保険料、減価償却費などが含まれます。
      • 固定費を1日あたりの金額に換算し、休業損害の日額に加算しました。
    • 休業期間:
      • Aさんの症状や、仕事の内容(内装業)などを考慮し、通院日だけでなく、通院していない日についても、一定の割合で休業損害を認められるべきと主張しました。

4-4. 保険会社との交渉:粘り強い交渉で増額を目指す

収集した証拠や再計算した損害額を基に、保険会社と粘り強く交渉を行いました。その結果、当初の提示額から大幅な増額を引き出すことに成功しました。

5. 解決内容:示談による260万円での解決

最終的に、以下の内容で示談が成立しました。

  • 解決方法: 示談
  • 最終的な賠償内容:
    • 治療費: 難聴で通院した分も含め、全額認定。
    • 休業損害:
      • 日額: 弁護士の主張通り
      • 休業割合: 通院日50%、通院日以外30%
    • 通院慰謝料: 弁護士基準の90%
    • 合計: 約260万円

後遺障害非該当に対しては、異議申し立てをしたとしても等級が付く可能性は低いと考えられ、早期に解決することをご希望されていたため、異議申立てまではしませんでした。

ただし、念のため、将来、後遺障害が認定された場合は、別途協議する旨の条項を示談書に入れました。

6. 増額幅:170万円

  • 相手方提示額: 約90万円
  • 最終的な賠償額: 約260万円
  • 増額幅: 約170万円

当初、保険会社の提示額は約90万円と、とうてい納得できる金額ではありませんでした。しかし、最終的には、約170万円増額の約260万円で解決することができました。

7. まとめ:個人事業主の交通事故、諦めずに弁護士へ

今回の解決事例から、以下のことがわかります。

7-1. 個人事業主の休業損害:算定のポイントと注意点

  • 個人事業主の休業損害は、会社員とは異なり、算定が複雑です。
  • 事故前年の所得を単純に365日で割るだけでは、実態に合った金額にならないことが多いです。
  • 確定申告書の固定費(事業を継続するために必要な経費)を丁寧に計算し、1日あたりの金額を算出する必要があります。
  • 複数年分の確定申告書があれば、より正確な損害額を算定できる可能性があります。
  • 休業期間についても、医師の意見や、仕事の内容などを考慮して、適切に主張する必要があります。

7-2. 治療費の因果関係:争いになった場合の対処法

  • 事故と治療の因果関係が争われることがあります。
  • 特に、難聴などは、事故直後には症状が現れにくく、因果関係が問題になりやすいです。
  • 因果関係を証明するためには、医師の意見書が有効です。
  • 事故の状況や、受傷の程度などを詳細に分析し、医学的な根拠に基づいて主張することが重要です。

7-3.慰謝料について

  • 慰謝料は、通院期間などによって、裁判所基準(弁護士基準)と、任意保険基準の金額に差が生じます。

7-4. 弁護士相談のメリット:専門知識と交渉力でサポート

  • 交通事故の損害賠償請求は、専門的な知識や交渉力が必要です。
  • 特に、個人事業主の休業損害は、算定が複雑で、保険会社との交渉も難航しやすいです。
  • 弁護士に相談することで、適切な損害額の算定、証拠収集、保険会社との交渉などをサポートしてもらえます。
  • 弁護士費用特約に加入していれば、自己負担なく弁護士に依頼できる場合があります。

交通事故に遭われた個人事業主の方は、諦めずに、まずは弁護士に相談することをお勧めします。専門家のアドバイスを受けることで、より良い解決につながる可能性があります。

記事の監修者

 

弁護士 藤本真一(東京弁護士会)登録番号51083 弁護士法人木村雅一法律特許事務所所属
東京・埼玉・神奈川・千葉・山梨・茨城・北海道の交通事故に注力しています。これまでの交通事故での解決実績は、400件以上です(令和7年1月現在)。八王子駅5分・京王八王子駅1分 現場調査と鑑定分析、証拠収集に強みがあると考えています。依頼人との信頼関係を築くことに努めています。

東京・埼玉・神奈川・千葉・山梨・茨城・北海道の交通事故に注力しています。

私たちはご依頼者様の不安やお悩みを共にできるよう親身にお話を伺いご依頼者様の立場に立って考えることを大切にします。

特徴 事務所では常時、数百件の交通事故事件を受任中で解決の実績は多数です。
強み 事故の的確な調査、調査会社や鑑定会社との連携、医学的・工学的な鑑定分析、証拠収集、過失割合・損害額の検討、交渉・訴訟・調停・ADR等の的確な方針の選択等に強みがあると考えています。
連携 依頼者の加入する損害保険会社や、地域に根付く代理店様との連携強化を続けています。
事故の的確な調査 弁護士会照会を行い(防犯カメラ、刑事記録等)、実際に事故現場に足を運び車両や事故現場に残された痕跡を正確に分析し示談交渉や訴訟に役立てています。
調査会社や鑑定会社 調査会社や鑑定会社と連携し、図面の作成、現場写真の撮影に加えドライブレコーダーや防犯カメラを分析した報告書、車両の損傷状況から導き出される事故態様についての鑑定意見書を作成し事故態様の解明に役立てています。
過失割合の分析 当事務所で解決・集積された膨大な記録や、複数の裁判例のデータベースから過失割合を分析しています。
損害額の検討 車両の修理費、車両の時価、評価損(格落ち)、治療費、交通費、慰謝料、休業損害、死亡分・後遺障害分の損害についても、記録や裁判例をもとに損害をもれなく積み上げて計算し、適正な賠償を獲得することに努めています。

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