
交通事故の被害に遭われた個人事業主(自営業者)の方、そしてそのご家族の皆様へ。事業への影響、収入の減少、保険会社との交渉…抱える悩みは計り知れないでしょう。特に、休業損害の算定は複雑で、保険会社からの提示額に納得がいかないケースも少なくありません。
今回の解決事例は、追突事故で頚椎捻挫と難聴を負われた内装業の個人事業主Aさん(仮名)のケースです。保険会社からの当初提示額は約90万円でしたが、弁護士に依頼したことで、最終的に賠償額は約260万円となり、170万円もの増額に成功しました。この大幅な増額は、どのようにして実現されたのでしょうか?
この記事では、Aさんが直面した問題、弁護士の具体的な対応、そして解決に至るまでの全プロセスを詳細に解説します。個人事業主(自営業者)の休業損害の計算方法、保険会社との交渉術、そして、弁護士に依頼するメリットについて、深く掘り下げていきます。同じような境遇でお悩みの方にとって、必ずや問題解決の糸口となるはずです。
目次
- 1. 事案の概要:追突事故、個人事業主(内装業)の被害
- 2. 相談に至る経緯:個人事業主ならではの悩みと不安
- 3. 相手方からの提示額:90万円の内訳と問題点
- 4. 弁護士の対応:徹底的な証拠収集と戦略的な交渉
- 5. 解決内容:示談による260万円での解決
- 6. 増額幅:170万円の増額を達成!
- 7. まとめ:個人事業主の交通事故、諦めずに弁護士へ
- 8. 免責事項
1. 事案の概要:追突事故、個人事業主(内装業)の被害

- 事故の種類: 追突事故
- 当事者:
- 依頼者: 個人事業主(内装業)
- 過失割合: 依頼者0:相手方100(追突事故のため、過失割合に争いなし)
- 怪我の状況: 頸椎捻挫(むちうち)、難聴
- 後遺障害: 非該当
事故現場は見通しの良い片側1車線の直線道路であり、赤信号で停車中の依頼者の車両に、相手方車両が後方から追突しました。
2. 相談に至る経緯:個人事業主ならではの悩みと不安

保険会社との交渉が、個人事業主であるAさんにとっては、大きな負担でした。
2-1. 被害者(依頼者)の事情
Aさんは、事故当時、個人で内装業を営んでいました。主な仕事は、住宅や店舗の内装工事で、現場での作業が中心です。 今回の事故により、頸椎捻挫(むちうち)と難聴の怪我を負い、仕事に支障が生じました。
- 休業損害の日額が低い: 保険会社は、Aさんの事故前年の所得を単純に365日で割って休業損害の日額を計算していました。しかし、個人事業主の場合、この計算方法では、実際の収入を反映しているとは言えません。
- 休業日数が短い: 保険会社は、警察に提出した診断書に記載された2週間しか休業を認めませんでした。しかし、Aさんの怪我の状況や仕事の内容からすると、2週間で仕事に復帰できるとは考えられませんでした。
- 慰謝料が低い: 慰謝料は、任意保険の基準で計算されていました。
- 治療費が認められない: Aさんは、事故後、難聴の症状が現れたため、耳鼻科に通院していました。しかし、保険会社は、事故と難聴の因果関係が不明であるとして、耳鼻科での治療費を認めませんでした。
- 弁護士費用特約: Aさんは、弁護士費用特約に加入していたため、弁護士に依頼して、これらの問題を解決したいと考えていました。
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3. 相手方からの提示額:90万円の内訳と問題点

相手方保険会社からの当初提示額は、以下の通りでした。
- 治療費: 難聴で通院した分は否認。
- 休業損害:
- 日額: 事故前年の所得 ÷ 365日
- 休業期間: 警察用診断書に記載された2週間のみ
- 通院慰謝料: 任意保険の基準
- 合計: 約90万円
3-1. 相手方提示額の問題点
- 休業損害の日額が、個人事業主の実態を反映していない。
- 休業期間が、実際の状況よりも短く見積もられている。
- 慰謝料が、裁判基準(弁護士基準)よりも低い。
- 事故と難聴の因果関係を否定され、治療費が認められない。
4. 弁護士の対応:徹底的な証拠収集と戦略的な交渉

弁護士は、Aさんの主張を裏付け、適切な賠償額を獲得するため、以下の対応を行いました。
4-1. 証拠収集:医師の意見書、複数年分の確定申告書など
まずは、客観的な証拠を収集することが重要です。以下の証拠を収集しました。
- 医師の意見書:
- Aさんが通院していた耳鼻科の医師に、事故と難聴の因果関係について意見書を作成してもらいました。
- 意見書には、事故による衝撃で難聴が発症した可能性が高いこと、治療の必要性などが記載されていました。
- 確定申告書:
- Aさんの事故前年度だけでなく、過去数年分の確定申告書を取り寄せました。
- 複数年分の確定申告書を比較することで、Aさんの収入の変動や、経費の内訳などを詳細に把握しました。
- 減収の証明:
- 事故後の確定申告書を取り寄せ、事故前と比較して収入が減少していることを証明しました。
- その他の証拠:
- 車両の損傷写真、修理見積書、刑事記録(実況見分調書など)を取り寄せ、事故の状況や、Aさんが受けた衝撃の大きさを把握しました。
- 相手方に対し、ドライブレコーダーの映像の提出を求めました。(結局、提出されず)
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4-2. 事故状況の分析:受傷の程度と因果関係の立証
収集した証拠を基に、事故の状況や、Aさんが受けた衝撃の大きさなどを詳細に分析しました。車両の損傷状況や、刑事記録の内容から、Aさんが受けた衝撃は相当なものであり、その衝撃によって難聴を発症した可能性が高いと判断しました。
4-3. 損害額の再計算:個人事業主の休業損害算定のポイント
以下の考え方に基づき、損害額を再計算しました。
- 慰謝料:
- 裁判基準(弁護士基準)で算定しました。
- 休業損害:
- 日額:
- Aさんの過去数年分の確定申告書を基に、1日あたりの固定費(事業を継続するために必要な経費)を算出しました。
- 固定費には、地代家賃、租税公課、損害保険料、減価償却費などが含まれます。
- 固定費を1日あたりの金額に換算し、休業損害の日額に加算しました。
- 休業期間:
- Aさんの症状や、仕事の内容(内装業)などを考慮し、通院日だけでなく、通院していない日についても、一定の割合で休業損害を認められるべきと主張しました。
- 日額:
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4-4. 保険会社との交渉:粘り強い交渉で増額を目指す
収集した証拠や再計算した損害額を基に、保険会社と粘り強く交渉を行いました。その結果、当初の提示額から大幅な増額を引き出すことに成功しました。
5. 解決内容:示談による260万円での解決

最終的に、以下の内容で示談が成立しました。
- 解決方法: 示談
- 最終的な賠償内容:
- 治療費: 難聴で通院した分も含め、全額認定。
- 休業損害:
- 日額: 弁護士の主張通り
- 休業割合: 通院日50%、通院日以外30%
- 通院慰謝料: 弁護士基準の90%
- 合計: 約260万円
後遺障害非該当に対しては、異議申し立てをしたとしても等級が付く可能性は低いと考えられ、早期に解決することをご希望されていたため、異議申立てまではしませんでした。
ただし、念のため、将来、後遺障害が認定された場合は、別途協議する旨の条項を示談書に入れました。
6. 増額幅:170万円

- 相手方提示額: 約90万円
- 最終的な賠償額: 約260万円
- 増額幅: 約170万円
当初、保険会社の提示額は約90万円と、とうてい納得できる金額ではありませんでした。しかし、最終的には、約170万円増額の約260万円で解決することができました。
7. まとめ:個人事業主の交通事故、諦めずに弁護士へ

今回の解決事例から、以下のことがわかります。
7-1. 個人事業主の休業損害:算定のポイントと注意点
- 個人事業主の休業損害は、会社員とは異なり、算定が複雑です。
- 事故前年の所得を単純に365日で割るだけでは、実態に合った金額にならないことが多いです。
- 確定申告書の固定費(事業を継続するために必要な経費)を丁寧に計算し、1日あたりの金額を算出する必要があります。
- 複数年分の確定申告書があれば、より正確な損害額を算定できる可能性があります。
- 休業期間についても、医師の意見や、仕事の内容などを考慮して、適切に主張する必要があります。
7-2. 治療費の因果関係:争いになった場合の対処法
- 事故と治療の因果関係が争われることがあります。
- 特に、難聴などは、事故直後には症状が現れにくく、因果関係が問題になりやすいです。
- 因果関係を証明するためには、医師の意見書が有効です。
- 事故の状況や、受傷の程度などを詳細に分析し、医学的な根拠に基づいて主張することが重要です。
7-3.慰謝料について
- 慰謝料は、通院期間などによって、裁判所基準(弁護士基準)と、任意保険基準の金額に差が生じます。
7-4. 弁護士相談のメリット:専門知識と交渉力でサポート
- 交通事故の損害賠償請求は、専門的な知識や交渉力が必要です。
- 特に、個人事業主の休業損害は、算定が複雑で、保険会社との交渉も難航しやすいです。
- 弁護士に相談することで、適切な損害額の算定、証拠収集、保険会社との交渉などをサポートしてもらえます。
- 弁護士費用特約に加入していれば、自己負担なく弁護士に依頼できる場合があります。
交通事故に遭われた個人事業主の方は、諦めずに、まずは弁護士に相談することをお勧めします。専門家のアドバイスを受けることで、より良い解決につながる可能性があります。
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