
交通事故の中でも、追突事故、特に被害者に過失がない「もらい事故」は、誰もが遭遇する可能性のある事故類型です。しかし、もらい事故であっても、必ずしも過失割合が100対0になるとは限りません。また、過失割合が100対0であった場合、保険会社との示談交渉は、自ら行わなければならず、専門知識がないと不利な条件で進められてしまうリスクもあります。
「突然の追突事故で、どうすればいいのか分からない…」
「もらい事故なのに、保険会社から過失割合を主張されて困っている」
「弁護士に相談すべきか迷っているけど、費用が心配…」
この記事は、このような悩みや不安を抱える追突事故・もらい事故の被害者に向けて、過失割合の決まり方、示談交渉の注意点、弁護士に依頼するメリットを解説するものです。
交通事故被害者救済の経験に基づき、難しい法律用語を避け、分かりやすく具体的な事例を交えながら、損をしないための知識と行動指針をお伝えします。この記事を読むことで、あなたは、交通事故、特に追突事故・もらい事故に関する正しい知識を身につけ、自信を持って適切な対応を取ることができるようになるでしょう。
目次
- 追突事故・もらい事故とは?過失割合の基本を理解する
- 追突事故の過失割合はこう決まる!詳細な判断基準と修正要素
- もらい事故なのに揉める?よくあるケースと対処法
- 追突事故・もらい事故で弁護士に依頼するメリットとは?
- 追突事故・もらい事故に強い弁護士の選び方と解決までの流れ
- 追突事故・もらい事故の被害に遭ったら、早めに弁護士へ相談を
1. 追突事故・もらい事故とは?過失割合の基本を理解する

1-1. 交通事故における追突事故の特殊性
追突事故は、交通事故の中でも非常に多く発生しており、その多くは、後方を走行する車両(追突車)の前方不注意や車間距離不保持などが原因で発生します。弁護士が扱う事故類型でも、多くの割合を占めると言っていいでしょう。
追突事故の特殊性は、過失割合の判断が比較的明確であるという点にあります。他の事故類型、例えば交差点での出会い頭の事故などに比べると、追突事故は、どちらの車両に過失があるのかが判断しやすい傾向にあります。
1-2. もらい事故(被害事故)とは?追突事故被害者の法的立場
「もらい事故」とは、交通事故の被害者であり、かつ、ご自身には過失が全くない、または極めて小さい事故のことを指します。追突事故は、このもらい事故の典型例と言えるでしょう。
追突事故の被害者(被追突車)は、通常、道路交通法を遵守し、安全に走行または停車している状況で、後方からの予期せぬ追突により被害を受けることになります。そのため、被害者に過失がないケースがほとんどです。
しかし、被害者の過失がゼロの場合(また、被害者が自分の過失がゼロであると主張する場合も含みます)、被害者自身の保険会社は、物損についても、示談交渉の代行権限がありません。なぜかわかりやすく言えば、保険会社のやることは、とどのつまりお支払いに尽きるからです。過失がゼロの場合は、当方からお支払いすることはなく、請求するだけになります。そのため、もらい事故の被害者は、物損の賠償についても、加害者側の保険会社と直接交渉する必要があります。

1-3. 追突事故の過失割合|原則と例外
追突事故の過失割合は、原則として、追突車100%:被追突車0%となります。これは、道路交通法において、車両は、前方を走行する車両との間に安全な車間距離を保ち、前方を注視して運転する義務が課せられているためです。追突事故は、この義務に違反した結果として発生することがほとんどであるため、追突車に全責任があると判断されるのが原則です。
しかし、例外的に、被追突車にも過失が認められるケースがあります。例えば、
- 正当な理由のない急ブレーキ
- 駐停車禁止場所での駐停車
- 駐停車の方法が不適切
- 夜間の非常点滅灯などの不灯火等
などがあった場合、被追突車にも過失が認められ、過失割合が修正される可能性があります。

2. 追突事故の過失割合はこう決まる!詳細な判断基準と修正要素
2-1. 過失割合の判断基準|「別冊判例タイムズ38号」とは?
交通事故の過失割合は、過去の裁判例を基に類型化された基準に基づいて判断されます。この基準として、実務上広く参照されているのが、「別冊判例タイムズ38号」(東京地裁民事交通訴訟研究会編)です(保険会社や弁護士は、まずこの本を参照して、過失割合を検討します。販売もされているので、購入しても良いでしょう)。
「別冊判例タイムズ38号」には、様々な事故類型ごとに、基本的な過失割合と、それを修正する要素が詳細に記載されています。保険会社や弁護士は、この基準を参考にしながら、個別の事故状況に応じて過失割合を判断し、修正要素の有無を検討します。

2-2. 追突事故の過失割合早見表
「別冊判例タイムズ38号」に掲載されている追突事故の過失割合に関する表に基づき、追突事故の過失割合の基本的な考え方と、修正要素について解説します。
- 基本: 追突事故の基本的な過失割合は、追突車(A)100%:被追突車(B)0%です。
- 修正要素: 表には、追突車の過失を加算する要素(+)と、追突車の過失を減算する要素(-)が列挙されています。
【主な修正要素】
- 追突車(A)の過失を加算する要素(+)
- Bの退避不能:+10%
- Aの15km以上の速度違反:+10%
- Aの30km以上の速度違反:+20%
- Aのその他の著しい過失:+10%
- Aのその他の重過失:+20%
- 追突車(A)の過失を減算する要素(-)
- 視認不良:-10%
- 駐停車禁止場所:-10%
- Bの非常点滅灯等の不灯火等:-10~-20%
- Bの駐停車方法不適切:-10~-20%
- Bのその他の著しい過失:-10%
- Bのその他の重過失:-20%
【注意点】
- この表は、あくまで基本的な過失割合と修正要素を示したものであり、すべての追突事故に機械的に当てはまるものではありません。
- 実際の過失割合は、個別の事故状況(道路状況、天候、運転者の状況など)を総合的に考慮して判断されます。
- 表に記載されていない要素も、過失割合の判断に影響を与える可能性があります。
- 著しい過失と重過失は択一的に適用され、重複して適用されません。
2-3. 被追突車が理由のない急ブレーキをかけた場合
道路交通法24条は、危険を防止するためにやむを得ない場合を除き急ブレーキをかけてはならないと規定されています。この場合については、「別冊判例タイムズ38号」には、駐停車車両に対する追突事故とは別の表として基準が設けられています。
- 基本: 追突車(A)70%:被追突車(B)30%です。
- 修正要素: 表には、追突車の過失を加算する要素(+)と、追突車の過失を減算する要素(-)が列挙されています。
【主な修正要素】
- 追突車(A)の過失を加算する要素(+)
- 住宅街・商店街等:+10%
- Aの15km以上の速度違反:+10%
- Aの30km以上の速度違反:+20%
- Aのその他の著しい過失:+10%
- Aのその他の重過失:+20%
- 追突車(A)の過失を減算する要素(-)
- Bの幹線道路の走行車線上停止:-10%
- Bの制動灯故障:-10~-20%
- Bのその他の著しい過失:-10%
- Bのその他の重過失:-20%
3. もらい事故なのに揉める?よくあるケースと対処法

3-1. なぜ揉める?保険会社との過失割合交渉が難航する理由
保険会社との過失割合交渉が難航する主な理由は、以下の点が挙げられます。
- 過失割合の判断基準の曖昧さ: 過失割合の判断基準は、過去の裁判例に基づいていますが、個別の事故状況は千差万別であり、必ずしも過去の裁判例に当てはまるとは限りません。そのため、保険会社と被害者との間で、過失割合の解釈に違いが生じることがあります。
- 証拠不足: 事故状況を客観的に証明する証拠(ドライブレコーダーの映像、目撃者証言など)が不足している場合、当事者双方の主張が食い違い、過失割合の判断が難しくなります。
- 被害者の感情的な反発: もらい事故の被害者は、「自分に非がないのに、なぜ過失割合を主張されるのか」と感情的に反発しやすく、保険会社との交渉がこじれることがあります。
3-2. 被追突車の過失が争点となるケース|急ブレーキ、駐停車の状況など
追突事故で、被追突車の過失が争点となるケースとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 急ブレーキ: 被追突車が、正当な理由なく急ブレーキをかけた場合、過失割合が争われることがあります。ただし、前方車両の急な割り込みや歩行者の飛び出しなど、危険回避のためにやむを得ず急ブレーキを踏んだ場合は、正当な理由があると認められ、被追突車の過失は問われないことが一般的です。
- 駐停車: 被追突車が、駐停車禁止場所に駐停車していた場合や、ハザードランプを点灯していなかった、三角表示板を設置していなかったなど、適切な警告措置を怠っていた場合、過失割合が争われることがあります。
- その他: 被追突車が、著しく遅い速度で走行していた、後退(バック)中に追突された、などの場合も、過失割合が争われることがあります。
3-3. 過失割合で揉めたときの解決策|弁護士への相談が最善の選択肢
保険会社から提示された過失割合に納得できない場合、または過失割合について保険会社と揉めてしまった場合は、まずは自分の保険会社や、加入する代理店への相談に加え、弁護士に相談することが解決策です。
弁護士は、
- 法的な知識と交渉力: 交通事故に関する専門的な知識と豊富な経験に基づき、適正な過失割合を主張し、保険会社と対等に交渉します。
- 証拠収集のサポート: ドライブレコーダーの映像解析、目撃者証言の収集、実況見分調書の精査など、過失割合を有利に進めるために必要な証拠を収集します。
- 紛争解決手段の選択: 示談交渉がうまくいかない場合、交通事故紛争処理センター(ADR)への申し立てや、裁判(訴訟)など、状況に応じた適切な紛争解決手段を選択します。
弁護士に相談することで、適正な過失割合を獲得できる可能性が高まり、結果として賠償金を増額できる可能性も高まります。

4. 追突事故・もらい事故で弁護士に依頼するメリットとは?
4-1. 適正な過失割合の獲得と賠償金増額|弁護士依頼で得られる経済的利益
弁護士に依頼する最大のメリットは、適正な過失割合を獲得できる可能性が高まり、結果として賠償金が増額することです。
保険会社は、自社の支払う保険金を抑えるため、被害者側の過失を過大に主張したり、本来支払われるべき賠償項目(慰謝料、休業損害、逸失利益など)を低く見積もったりすることがあります。
弁護士は、過去の裁判例や法的知識に基づき、保険会社の主張の矛盾点を指摘し、適正な過失割合と賠償金を請求します。また、弁護士が交渉することで、「弁護士基準(裁判基準)」と呼ばれる、裁判所が認定する賠償基準に近い金額で示談が成立する可能性が高まります。
4-2. 保険会社との示談交渉を全面的に代行|精神的負担の軽減
もらい事故の被害者は、自身に過失がないにもかかわらず、加害者側の保険会社との交渉を強いられます。保険会社との交渉は、専門用語が多く、法的な知識も必要となるため、被害者にとって大きな精神的負担となります。
弁護士に依頼することで、保険会社との交渉を全面的に代行してもらうことができます。被害者は、保険会社からの連絡に直接対応する必要がなくなり、精神的なストレスから解放されます。通常、保険会社は平日の昼間に電話してきますし、煩雑な対応を弁護士に任せることができるのは大きいでしょう。

4-3. 後遺障害等級認定、休業損害…複雑な損害賠償請求も安心
追突事故で怪我をした場合、後遺症が残ってしまうことがあります。後遺症が残った場合、後遺障害等級認定を受けることで、後遺障害慰謝料や逸失利益などを請求することができます。
しかし、後遺障害等級認定の手続きは複雑であり、専門的な医学的知識や法的知識が必要となります。弁護士は、後遺障害等級認定の申請手続きをサポートし、適切な等級認定を得るためのサポートを行います。
また、事故による休業期間中の収入減を補償する休業損害の請求も、弁護士に依頼することで、適切な金額を算定し、保険会社に請求することができます。
4-4. 弁護士費用特約で費用負担を軽減|自動車保険の確認を
弁護士に依頼する際に心配なのが、弁護士費用です。しかし、多くの自動車保険には、弁護士費用特約が付帯しています。弁護士費用特約を利用すれば、自己負担を大幅に抑えて弁護士に依頼することができます。
弁護士費用特約とは、交通事故の被害者が弁護士に依頼した際の弁護士費用を、保険会社が一定額まで負担してくれるというものです。一般的に、弁護士相談料として10万円、弁護士費用として300万円まで補償されるケースが多く、多くの交通事故案件で、この範囲内で弁護士費用をまかなうことができます。
弁護士費用特約を利用しても、保険の等級が下がることはありません。また、ご自身の自動車保険だけでなく、ご家族の自動車保険に付帯している特約を利用できる場合もあります。
弁護士費用特約の利用については、ご加入の自動車保険の契約内容を確認し、不明な点があれば保険会社に問い合わせてみましょう。

5. 追突事故・もらい事故に強い弁護士の選び方と解決までの流れ
5-1. 交通事故案件の経験豊富な弁護士を選ぶ|実績の見極め方
弁護士には、それぞれ得意分野があります。追突事故・もらい事故の解決を依頼するのであれば、交通事故案件の経験豊富な弁護士を選ぶことが重要です。
弁護士の経験や専門性を見極めるポイントとしては、
- 交通事故案件の経験が豊富か
- 追突事故・もらい事故の解決実績が豊富か
- 弁護士事務所のウェブサイトに交通事故に関する情報が充実しているか
- 無料相談で、親身になって話を聞いてくれるか、分かりやすく説明してくれるか
などが挙げられます。

5-2. 無料相談を活用して弁護士との相性を確認|相談時のポイント
多くの弁護士事務所では、無料相談を実施しています。無料相談は、弁護士の専門性や人柄、事務所の雰囲気などを確認する絶好の機会です(弁護士費用特約が付帯されている場合、保険会社には相談料を請求することが多いです。もちろんその場合、依頼者の弁護士費用の負担はありません。)。
無料相談では、
- 事故状況を詳しく説明する
- 保険会社から提示された過失割合について相談する
- 提示された金額が正当なものか相談する
- 損害の費目にもれがないか相談する
- 今後の見通しや弁護士に依頼した場合のメリット・デメリットについて質問する
- 弁護士費用について確認する
など、気になることは遠慮せずに質問しましょう。

5-3. 弁護士費用と契約内容の確認|明確な説明を求める
弁護士に依頼する際には、弁護士費用と契約内容をしっかりと確認し、納得した上で契約することが重要です。
弁護士費用には、相談料、着手金、報酬金、実費などがあります。それぞれの費用の内訳や金額、支払い時期などを明確に説明してもらい、不明な点があれば質問しましょう。
また、契約書には、委任契約の内容、弁護士費用、解約に関する条項などが記載されています。契約書の内容をよく確認し、不明な点や納得できない点があれば、契約前に弁護士に確認しましょう。
5-4. 弁護士依頼から解決までの流れ|示談交渉、ADR、裁判
弁護士に依頼した場合、解決までの流れは、
- 弁護士との相談・委任契約
- 証拠収集・調査
- 保険会社との示談交渉
- 示談成立・賠償金支払い
- (示談交渉が不成立の場合)
- 交通事故紛争処理センターなどのADRへの申し立て・裁判(訴訟)
- 判決・和解成立
- 賠償金支払い
という流れが一般的です。

6. 追突事故・もらい事故の被害に遭ったら、早めに弁護士へ相談を
この記事では、追突事故、またはもらい事故に遭われた被害者の方が、適正なと賠償金を獲得するために知っておくべき情報と、弁護士を活用する方法について解説しました。
【この記事のポイント】
- 追突事故の過失割合は、原則として追突車100%:被追突車0%だが、例外もある。
- 被害者の過失がゼロの場合(被害者が自分の過失がゼロであると主張する場合も含みます)、被害者自身が保険会社と交渉する必要がある。
- 保険会社は、追突事故・もらい事故の被害者の過失を主張してくることがある。
- 過失割合や賠償金で納得できない場合は、弁護士に相談するのが良い。
- 弁護士に依頼することで、適正な過失割合の獲得、賠償金増額、示談交渉の代行、精神的負担の軽減などのメリットが得られる。
- 後遺障害等級認定や休業損害請求など、複雑な手続きも弁護士がサポートしてくれる。
- 弁護士費用特約を利用すれば、自己負担を抑えて弁護士に依頼できる。
- 交通事故に強い弁護士を選ぶことが重要。

追突事故やもらい事故は、被害者に大きな精神的、肉体的、そして経済的な負担をもたらします。被害者でありながら、様々な資料の提出や保険会社との対応の必要も生じ、なぜこんなことに巻き込まれなければならないのか、理不尽な思いをされる方が多くいます。
しかし、正しい知識を持ち、適切な行動を取ることで、その負担を軽減し、正当な権利を守ることができます。
もし、あなたが追突事故・もらい事故の被害に遭われた場合は、一人で悩まず、まずは自分の保険会社や、加入する代理店、弁護士に相談してください。弁護士は、あなたの味方となり、問題解決に向けて全力でサポートしてくれます。この記事が、交通事故被害に遭われた方々の一助となり、より良い未来への一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。